"Sky Map"で夜空を眺めよう!
(本記事はブログ「Tosky's IT Review」から転載したものです)
酒井ITビジネス研究所 酒井 寿紀 2017/01/20
スマートフォンを夜空にかざせば・・・
Androidに"Sky Map"という無料のソフトがある(1)。スマートフォンでこれを起動して夜空にかざせば、かざした方向に見える星空の図が表示され、星座や星の名前が分かる。冬の夜、南の空にオリオン座が現れるが、三ツ星を囲んでいる四角形の、左上が「ベテルギウス」、右下が「リゲル」という名前の星だと分かる。
オリオン座のすぐ南のひときわ明るい青白い星は「シリウス」だ。オリオン座の東の明るい星は「プロキオン」で、これらはベテルギウスと合わせてほぼ正三角形をなしている。いわゆる「冬の大三角形」である。
このように、スマートフォンを夜空にかざせば、星や星座の名前が簡単に分かる。しかし、Sky Mapが役に立つのはこれだけではない。平面的な星座表では理解が難しい3次元空間での星の動きの理解を容易にしてくれる。
Sky Mapの他にも同類のソフトがあるのだと思うが、私はSky Mapしか使ったことがないので、これを使って気付いたことを以下にご紹介したい。
中には、 別にスマートフォンを使わなくても、考えて見れば当たり前のこともあるが、スマートフォンはそれを感覚的に感じることを可能にしてくれる。天文学には縁のない私にとって、新鮮な驚きだったこともある。
地球の自転、赤道の大円を「実感する」ことができる
地球は北極と南極を結ぶ直線を軸にして1日1回回転している。地球から見ると、天球が地球のまわりを回っているように見えるが、実は地球が自転しているのだ。走っている列車の窓から見ると、木や建物が動いているように見えるのと同じである。
北緯約35度にある東京では、北極星は北の仰角約35度のところに見える。これは、名古屋、大阪、広島など、北緯約35度の地点なら全世界同じである。
東京では天球上の南極点は見ることができないが、Sky Mapを使えば、その場所を地平線の下の俯角約35度のところに見ることができる。そのため、北極と南極を結んだ直線を軸にして3次元空間が回転している様子を具体的に「実感する」ことができる。
天球の赤道は地球の赤道面を天球上に延長したものだ。これは天球上の北極と南極の中間点をつないだものになる。Sky Mapで見ると、赤道が天球を大円として一周し、南北に二分していることがよく分かる。
Sky Mapで、この赤道の近くに、オリオン座の三つ星のほか、プロキオン、レグルス、スピカ、アルタイルなどの星があることが分かる。Sky Mapでは、昼間だろうと、地球の裏側にあろうと、すべての星の位置を知ることができる。
この赤道面の東京での仰角は、90度から北極星の仰角の35度を引いた55度だ。オリオン座の三ツ星が相当な上空を通過することが分かる。ロンドン、パリ、フランクフルトなどは、北緯50度程度なので、北極星やオリオン座の見え方はかなり違うはずだ。何度も行ったのに、星の位置を気に留めなかったのは残念なことをした。
太陽、月の仰角は?
Sky Mapでは、恒星のほか、太陽、月、惑星の位置も表示される。これらは太陽系の惑星の公転面上にあり、この惑星等の通路を天球の黄道(こうどう)という。黄道は、赤道同様、天球の大円の一つで、どこを走っているかを、Sky Mapで天球を1周して「見る」ことができる。
この黄道面と赤道面は23.5度ずれている。つまり、地球の自転軸は公転面上に立てた垂線に対して23.5度傾いている。どの方向に傾いているかというと、北半球が、夏の昼間は太陽に近づき、冬の昼間は太陽から遠ざかる方向に傾いている。そのため、夏は暑く、冬は寒い。この自転軸の傾きの方向は常に不変で、季節によって北極星の位置が変わることはない。但し、何千年単位で見れば、多少動いているのだが、これは別の話だ。
Sky Mapで見れば、オリオン座のあたりでは黄道は赤道の北側だ。オリオン座が見える冬の夜空では、黄道は赤道の北だということは、昼間は天球の反対側に面するため、黄道は赤道の南側になる。つまり、北半球の都市は黄道面から遠ざかり、寒くなる。
黄道面は赤道面に対し、23.5度傾いているため、黄道の地上での最高点の仰角は、東京付近では55度+23.5度で、78.5度になる。夏至の正午の太陽の高さだ。ヨーロッパの都市に比べれば、日本は熱帯に近いことが分かる。冬の夜の月の仰角も同じように高い。月がオリオン座の上に来るときは仰角78.5度程度になる。月の仰角は、冬高く、夏は低い。太陽とは逆だ。
南十字星はどこにある?
当たり前のことだが、地平線の下の空は見えない。したがって、我々が見ることができるのは常に天球の半分だけだ。しかし、時刻によって見える部分が変化し、さらに季節によっても見える部分が変る。ところが、地球上の一つの場所では絶対に見ることのできない天球の部分がある。東京など北緯35度付近では、南緯55度以南の天空は一年中見ることができない。
しかし、Sky Mapでは常に全天球を見ることができるので、現在南十字星がどこにあるかが分かる。実は私は、南半球はインドネシアのジャカルタに一度行っただけで、南十字星は見たことがなく、南極点のごく近くにあるのだとばかり思っていた。ところがこれは南緯60度付近にあることが分かった。北極側で言えば、北斗七星のひしゃくの先の水を入れるところぐらいだ。そのため、Sky Mapで見ると、季節によっては地平線(南緯55度)のすぐ下にあることが分かって驚いた。
このようにSky Mapを使うと、地平線の下の天球がどうなっているかが一目で分かる。したがって、いつ頃どのへんでどの星が見えてくるかを事前に知ることができる。
昼にも星はある!
これも当たり前のことだが、昼間も天球には多数の星がある。ただ、太陽が明るすぎるので、肉眼では見えないだけだ。
昔の人は黄道に沿って存在している星座に12の名前を付けた。これは現在でも星占いに使われている。昔の人は、夏至に太陽が天頂を通過する緯度(北回帰線)を、その時に「かに座」に太陽があったことから"Tropic of Cancer(かに座)"と名付け、また、冬至に太陽が天頂を通過する緯度(南回帰線)を、その時に太陽が「やぎ座」にあったことから"Tropic of Capricorn(やぎ座)"と名付けた。
太陽の方角にある星座はまったく見えないのに、どうしてこういう名前を付けたのだろうか? 何か月か前に見た星座の位置から推測したのだろうか?
ここに一つ問題がある。現在の夏至の時の太陽の位置は「かに座」よりもその西隣の「ふたご座」や「おうし座」に近く、また、冬至の時の太陽の位置は「やぎ座」よりもその西隣の「いて座」や「さそり座」に近いのだ。
こうなったのは、地球の歳差運動のためだという。地球の自転軸は約26,000年の周期で自転と反対の方向に回転している。そのため地球の公転面の夏至や冬至の位置は恒星に対して毎年少しずつ西にずれていく。
26,000年で1回転し、360度ずれるということは、黄道上の12星座の一つ分ずれるのに2,000年程度かかるということだ。ということは、"Tropic of Cancer"とか"Tropic of Capricorn"が命名されたのは今から2,000~4,000年前ということになる。現在命名するとすれば"Tropic of Cancer"は"Tropic of Gemini(ふたご座)"か"Tropic of Taurus(おうし座)"になる。しかし、これもいずれ時代遅れになる。日本語の「北回帰線」の方がはるかに永続性がある。
これは別にSky Mapを見て分かった話ではない。 しかし、Sky Mapはいろいろな新たな疑問を提起してくれる。
地球の自転周期は24時間ではない!
1日は24時間だ。ここで1日とは、地球の一点から見て太陽が1日前と同じ方向になるまでの時間である。しかし、地球は1年かけて太陽のまわりを回っている。では、恒星から見て地球が1回転する時間は何時間なのだろうか? Sky Mapを見ていて疑問に思った。
1年は365日だ。4年に1回うるう年があることを考慮すると、より正確には365.25日だ。時間にすれば、365.25X24で8,766時間だ。この間に、地球は「太陽に対して」365.25回転する。と同時に太陽のまわりを自転と同じ方向に1回転するので、恒星に対しては1回転多い366.25回転していることになる。したがって、地球の(恒星に対する)自転周期は8,766時間÷366.25で、23.934時間、つまり約23時間56分になる。
これも小生にとってはSky Mapに触発されて得た新知識である。
Sky Mapの生まれは?
Googleでは20%の時間を自分がやりたいことに使ってよいことになっているそうだ。Sky Mapはピッツバーグの数人の天文好きの社員が、この制度を利用して開発したソフトだという。現在はカーネギーメロン大学の学生も開発に参画しているそうだ。現在ソフトは無料で提供され、ソースコードも公開されている(2)。
要するに、Sky Mapは商用を目的に開発されたソフトではなく、いわば道楽の産物なのだ。
Sky Mapは今まで記したように、地球上のどの地点でも、現時点の天球の星の位置を表示するものだ。そのために必要な、場所、時刻、スマートフォンの3次元空間での向きの情報を、スマートフォンのGPS、時計、加速度センサー、磁気センサー(またはジャイロスコープ)の機能を使って取得している。つまり、最近のスマートフォンのセンサーの機能を総動員して使っているソフトの一つである。
今後の期待
Sky Mapは、従来の印刷物の星座表などに代って、天体の動きの情報を取得する新しい手段を提供してくれる。そして、これを利用すれば、天体に関する個々の断片的な情報が得られるだけでなく、宇宙の3次元空間としての理解の仕方も変わってくる。私は今後、この3次元空間の枠組みを土台にして宇宙のことを考えるようになるだろう。
スマートフォンはまだ生まれてから日が浅いので、今後種々のセンサーの機能を駆使した情報の新しい取得手段がいろいろ開拓されていくだろう。展望台から見える山や湖の名前、街角で見える建物の名前など、ニーズはいくらでもある。
[関連記事]
(1) "Sky Map", Google Play
(2) "Open-sourcing Sky Map and collaborating with Carnegie Mellon University", Google Research Blog, January 20, 2012