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偽ニュースにご用心!!

(本記事はブログ「Tosky's IT Review」から転載したものです)

酒井ITビジネス研究所   酒井 寿紀    2017/01/14 

大統領選挙で偽ニュースが横行!  

 昨年(2016年)米国の大統領選挙が行われ、大方の予想に反して、トランプがクリントンを破って当選した。

その選挙期間中、さまざまな「偽ニュース」がインターネットを駆け巡った。一例を挙げると、

「ローマ法王がトランプを支持!」(1)

「ヒラリーのメールがアメリカのスパイを殺してしまった」 (2)

「ヒラリー・クリントンは、トランプのような実業家が大統領選に出馬するのは望ましいと言ったことがある」、等々である。

 発信源はマケドニアの少年

その主な発信源は、バルカン半島にあるマケドニアという小国のヴェレスという人口4万人あまりの町だという。その町の十数人の10代の少年の仕業だというので驚く(2)。

 彼らは100以上の米国の偽ニュースサイトを開設し、本物らしく見せかけるため、米国の本物のニュースサイトから記事を大量に盗用し、読者の興味をそそるように、見出しや記事の一部を、事実に反するセンセーショナルなものに改変した(3)。

そしてFacebookなどのSNSのアカウントを大量に取得して、この偽ニュース情報の拡散を図った。拡散があるレベルに達すると、あとは自動的に増殖するので、労せずして読者がどんどん広がっていくのだ。

 目的は広告料収入

彼らの目的は偽ニュースサイトからの広告料収入である。偽ニュースサイトの読者が増えれば広告料収入も増加する。ある人は、選挙期間の半年で6万ドル以上稼いだという。 この収入でBMWを買った人もいるそうだ(4)。

 広告料が目的なので、ウェブページの閲覧者が多ければ多いほどよい。そのため、情報の真偽はどうでもよく、閲覧者にとって心地いい話、読みたくなる話であることが重要なのだ。つまり、景気の下降より上昇、増税より減税、賃金の下落より賃上げの話などである。

 防衛策は?

偽ニュースの横行による悪影響を憂慮する人々は、偽ニュースのSNSでの拡散を防止する処置や、広告の掲載の拒否を要求している。しかし、性、麻薬、暴力等が絡んだコンテンツの排除は可能でも、記事の内容の真偽で偽ニュースを排除することは不可能に近い。

 しかし、偽ニュースの排除の必要性はFacebookのザッカーバーグCEOも認めていて、ユーザーの協力を得て問題の解決を図るシステムの実験を始めたと言っている(5)。

 米国の大統領選挙で偽ニュースがかなり影響したと見ている人もいる。偽ニュースは大衆受けする情報を流すため、いわゆる「ポピュリスト」に有利に働くという見方だ。そのため、今年選挙を控え、ポピュリストの台頭に頭を悩ませているドイツでは、メルケル首相が「米国の経験に学ぶ必要がある。インターネットの影響を過小評価してはならない」と、対応策の検討を指示した(6)。

 しかし、有効な防衛策には限界があるだろう。偽ニュースに限らず、ウェブの情報には間違い、ウソが氾濫している。最終的には利用者が判断するしかない。

政治問題とは限らない

昨年話題になったのは米国の大統領選挙絡みの話だ。しかし、この偽ニュースの仕掛人の目的は金儲けである。誰が米国の大統領になろうと関係ないのだ。

 したがって、多くの人が関心を持ってくれ、ウェブ情報を検索して閲覧してくれるとともに、知人にも紹介してくれれば、どんな話題でも構わないのだ。たとえば、有名人のシモネタ絡みのゴシップ記事などは格好の材料にされそうだ。

マケドニアの少年に負けるな!?

昨年は米国の選挙がマケドニアの少年たちに引っ掻き回された。しかし、これはマケドニアでなくても、インターネットが使える環境であれば、世界中どこでも起こり得た話だ。

ただ、こういうことを実行して成功するには、インターネットの技術的知識だけでなく、 米国の大衆が何を望み、どういう情報に心地よく感じるかを知っている必要がある。偽ニュースを流すことは許されないが、マケドニアの少年たちの知識と行動力には感心する。日本の少年たちも、彼らに負けないようになる必要がある。要求されるこのような資質は今後の国際ビジネスに必須だからだ。

[関連記事]

(1) "Nope Francis", Snopes.com, Jul 24, 2016

(2) "How Facebook powers money machines for obscure political 'news' sites",The Guardian, 24 August, 2016

(3) "How Teens In The Balkans Are Duping Trump Supporters With Fake News", BuzzFeed, Nov 4, 2016

(4) "Fake News: How a Partying Macedonian Teen Earns Thousands Publishing Lies", NBC News, Dec 9, 2016

(5) "Facebook Wants Users To Help It Weed Out Fake News", Forbes, Dec 6, 2016

(6) "‘Fake news’ threatens Germany’s election, too, says Merkel", Washington Post, November 23, 2016


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