No.801 酒井ITビジネス研究所 酒井 寿紀 2008/05/06
何とかならぬか? マイクロソフト
アドレス帳が片道切符
約1ヶ月前に、日常主として使うパソコンをWindows XPからWindows Vistaに切り替えた。メールの処理などが格段に速くなり、おおむね快適にVistaを使っているが、中にはマイクロソフトの製品企画に首を傾げたくなる点もある。ここではその代表としてメール・クライアントとアドレス帳を取り上げる。
Windows XPのメール・クライアントはOutlook Expressで、アドレス帳はWindows Address Bookである。これに対し、Widows Vistaでは、メール・クライアントがWindows Mailに変わり、アドレス帳がWindows Contactsになった。Windows Mailにはスパム・フィルタの機能が追加され、また、Windows Contactsには顔写真が貼り付けられるなど、機能的には確かに前より充実している。しかし問題は、Windows Vistaでは従来のOutlook ExpressやWindows Address Bookを使うことができず、また、新しいWindows MailやWindows ContactsはWindows XPでは使えないことだ。そして、従来のWindows Address BookをWindows Contactsに変換することはできるが、その逆はできない。
日常主として使うパソコンをVistaに切り替えたが、従来のXPのパソコンをバックアップとして引き続き使っている人も多いだろう。また、旅行先で使うノートパソコンは当面XPのままにしている人もいるだろう。このように複数のパソコンで違うバージョンのOSを使うのは、古いハードでVistaを動かすことがメモリ容量などの点から困難なためもあるが、理由はそれだけではない。古いソフトにはXPでしか動かないものもあり、また、障害切り分けのために古いOSやソフトを使えるようにしておきたいためもある。そして、作成したウェブページが各種ブラウザでちゃんと閲覧できることを確認するためにも古いシステムが必要になる。
こうして複数のOSを併用する際は、ワープロや表計算のデータ、アドレス帳やブックマークなど、個人用のファイルがOSやアプリケーション・ソフト間で共用できるか、または相互に変換できることが不可欠だ。しかし、XPとVistaの間では、他のファイルについてはこれができても、アドレス帳についてはできない。これは不便極まりない。
Windows Live Mailで問題がさらに複雑に
マイクロソフトは2007年11月に新しいメール・クライアントのWindows Live Mailと新しいアドレス帳のWindows Live Contactsをリリースした。これらのソフトは、通常のEメールだけでなくウェブメールやチャットなども統一的に扱えることが売り物である。そして、これらのソフトはVistaだけでなくXPでも使える。そのため、これらが、メール・クライアントやアドレス帳についてXPとVistaの橋渡しになるかというと、そうはならない。Windows Live Mailでは、アドレス帳としてWindows Address BookやWindows Contactsを使えない。また、Outlook Expressや Windows Mailでは、Windows Live Contactsをアドレス帳として使えない。Windows ContactsとWindows Live Contactsの間で、手作業でデータを相互に変換することはできるようだが、この辺の事情が分かりにくいらしく、英語の掲示板には多数の質問が掲載されている。
何が原因なのか?
Outlook Expressのマルチアカウントやテンプレートの機能不足の問題については別の誌面で指摘した。1) これらの問題はWindows Mailでも解決されていない。 どうしてマイクロソフトにはこのように不便な製品が多いのだろうか?
一つには、2007年現在、従業員が7万9000人と、組織が巨大になりすぎたことがあると思われる。そのため、統一された思想の下で製品開発を進めることが困難になったのだろう。日本には、「大男、総身に知恵が回りかね」ということわざがある。
そして、やはり「独占の弊害」もあるではなかろうか? 製品の品質向上には市場での競争が重要な役割を果たす。事実上の無競争状態が長年続けば、ユーザーの声の反映がないがしろにされる恐れが大きい。
マイクロソフトの実質的な市場独占は、全世界での事実上の標準を確立して、ITの世界の進展に大きく貢献した。しかし、その独占は負の側面も持っているので、その弊害を最小限に抑えるような注意が常に必要である。
アドレス帳の一本化に期待しよう
最後に一点、将来の明るい可能性について触れよう。Windows ContactsはvCardという標準規格のアドレス帳と相互にデータを変換できる。このvCardはアップルのパソコンでも使われ、またLDIFという標準規格との間でも相互にデータの変換ができる。そして、日本の宛名印刷ソフトの住所録にも、最近はvCardとの変換機能を備えたものが現れている。このようにして、将来は、メール・クライアントや宛名印刷ソフトなどのアドレス帳、携帯電話や固定電話の電話帳などについて、おおもとのアドレス帳を一つ作れば、あとはそれをコピーすれば済む日が来ることが期待される。
1) 「悪い製品がよい製品を駆逐?」(オーム社 技術総合誌「OHM」2008年1月号) (http://www.toskyworld.com/archive/2008/ar0801ohm.htm)
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