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No.705                     酒井ITビジネス研究所  酒井 寿紀                      2007/09/06


携帯電話ビジネスはどうなる? (2

 

前号に引き続いて、本号では「モバイルビジネス研究会」で取り上げられた問題のうち、「SIM (Subscriber Identity Module)ロック」と「MVNO (Mobile Virtual Network Operator)」について取り上げる。

 

SIMロック

最近の携帯電話端末にはSIMカードという、通信事業者が発行する標準仕様のカードが入っていて、端末の電話番号などの通信サービスに必要な情報や、電話帳などの個人用の情報が格納されている。技術的には、このSIMカードを別のSIMカードに差し替えることができる。例えば、旅行先の国で、同一通信方式の事業者のSIMカードを買って、いつも使っている端末に差せば、その端末をその国でも使うことができる。仕事の関係で何カ国かを常時移動する人は、一つの端末を複数の国で、その国の携帯電話として使うことができる。

新しい端末に買い替えたり、ほかの人から端末を譲り受けたりしたときに、従来使っていた端末のSIMカードを差せば、今までの電話番号で通話ができ、電話帳などもそのまま使える。また、仕事で出張のときと遊びに出かけるときなどで、端末を使い分けることもできる。携帯電話端末は最近高機能化し、携帯音楽プレーヤー、テレビ、PDA (Personal Digital Assist)など、いろいろな機能を取り込んだものが現れつつある。これらを時と場合によって使い分けられれば便利だ。

インターネットの機能には通信事業者にくくりつけになっているものが多いため、別の通信サービスや端末に切り替えたときは制約がつくが、通話は基本的に問題ない。

ところが、現在日本で販売されている端末は、一般にこの技術的には可能なことができないようにできないように細工してある。その最大の理由は、販売奨励金で端末の価格を異常に安くしているため、端末を買った直後にほかの通信事業者の通信サービスに切り替えられたら、通信料金での販売奨励金の回収ができなくなるからだ。しかし、このSIMロックはユーザーに不便を強いて、端末の自由な販売競争を阻害している。

今回の「報告書」は、SIMロックは原則として解除することが望ましいと言っている。しかし、現状ではインターネットの機能などについて通信事業者間の差が大きいため、コンテンツやアプリケーションのインターフェースを標準化するのが先決で、その動向を踏まえて2010年の時点で再検討するのが適当だという。

海外ではSIMロックなしの端末が多数販売されているのに、このように、SIMロック問題を先送りしていいのだろうか?

 

MVNO

通信設備を自前で持っている通信事業者をMNO (Mobile Network Operator) という。MVNOはこれにV (Virtual) が加わっていて、通信設備を自前で持たず、それをMNOから借りて、特徴のある通信サービスを提供する事業者のことをいう。日本にはまだあまりないが、海外には、安さを特徴とするもの、スポーツ、音楽、子供向けなどのニッチマーケットを対象にするものなど多数存在する。

現在日本では、物理的な通信ネットワークから、コンテンツに至るまで一体にして、通信事業者がサービスを提供している。しかし、こういう垂直に統合した事業形態では、コンテンツの多様化に限界がある。MVNOの市場が発達すれば、コンテンツの市場がさらに広がることが期待できる。そして、MVNOのもう一つのメリットは、MNOの通信設備の稼働率の向上にも貢献できることである。

このMVNOについて、総務省は今年2月に、通称「MVNO事業化ガイドライン」といわれるものを改定し、MNOMVNOからサービス提供の申し入れがあったとき、正当な理由がない限りそれを拒んではいけないことを明確にした。今回の「報告書」はそれを踏まえて、MVNOの市場の発展のためには、さらに端末プラットフォームとアプリケーションのインターフェースを標準化し、MVNOによる特徴あるサービスの提供を容易にすることなどが今後の課題だと指摘している。

 

現在、日本の通信事業者はコンテンツの拡充に力を入れ、通信インフラからコンテンツの提供までを垂直に統合したサービスでお互いに競争している。こういう事業形態は携帯電話の普及期には大いに力を発揮した。しかし、今後はこういう形態では、コンテンツの多様化にも端末の品揃えの拡充にも限界がある。

大型コンピュータもパソコンも、初期には各企業が製品やサービスを垂直に統合して提供していた。しかし、普及が進むと、垂直に統合したビジネスではユーザーの要求を充分に満足することができず、CPU、周辺装置、OS、アプリケーション・プログラム、インターネット接続など、それぞれ専業の企業が現れて、製品やサービスを分担するようになった。専業企業がコアコンピテンスを一分野に集中した方が、垂直統合の企業よりよい製品やサービスを提供できるのは当然のことだ。そして、製品間のインターフェースの標準化、オープン化がこういう水平に分割された市場の形成を可能にしてきた。

いずれ携帯電話も同じような道をたどることになるだろう。その方がユーザーの要求をより満足できるからだ。そのためには、販売奨励金の見直しも、SIMロックの解除やMVNO参入の促進も避けて通れない。総務省もこれから法整備や行政指導でいろいろ手を打ってくるだろうが、肝心なのは通信事業者と端末機メーカーのスタンスだ。


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