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No.701                     酒井ITビジネス研究所  酒井 寿紀                      2007/01/25


Winny裁判が教えるもの

 

Winnyの開発者が有罪に!

昨年12月に、京都地裁は、Winnyというファイル交換ソフトの開発者に対し、著作権法違反の幇助罪で罰金150万円の有罪判決を下した。違法なファイル交換に使われるのを承知の上で、インターネット上でこのソフトウェアを公開し、改良を重ねたというのがその理由である。

この判決に対し、ソフトウェア関係者は、若い開発者の意欲を萎縮させるものだと避難している。今回の事件は一体どういう問題をはらんでいるのだろうか?

Winny裁判の歴史的背景は?

今回の事件は、著作物をコピーしたり配布したりする側と著作権者との間で長年争われてきた戦いの延長線上にある。こういう問題が大きく取り上げられたのは、米国でユニバーサル・スタジオがソニーのビデオテープ・レコーダを、違法コピーを助長するものだと訴えたのが最初である。裁判は1976年から8年間にわたって争われ、最後に最高裁によって、ある製品が合法的な目的に広く使われているのであれば、その製品が一部で違法に使われたとしても、その製品が違法行為を助長したとは言えないとの判断が示された。出刃包丁の販売は殺人の幇助にはならないということだ。

この判決がその後のこの種の問題の指針となってきた。しかし、1990年代の末にインターネットが高速化し、音楽のディジタル化やファイル交換の技術が進歩すると新たな問題が発生した。音楽ファイルのインターネット上での公開が流行し、それをダウンロードすれば誰でも無料で音楽を聴けるようになったのである。

Napsterはこういうサービスの一つで、1999年にサービスを開始し、使い勝手のよさから2001年には何千万人もの人が使っていたという。そして、Napsterで流通していた音楽のほとんどが違法コピーだったと言われている。その後、NapsterRIAA(全米レコード工業会)などに訴えられ、敗訴になったあと、結局清算された。

ファイル交換ソフト自身に違法性がなくても、大半のケースで違法行為に使われるようになり、もはやソニー対ユニバーサル・スタジオの判例は通用しなくなった。

しかし、ファイル交換ソフトは、モグラ叩きのモグラのように次々と新しいものが現れ、インターネット上で使われているのが実態である。Winnyもその一つだった。

最近は、YouTubeなど映像ファイルの共用もさかんで、ここでも全世界からの違法投稿者があとを絶たない。

Winny裁判の教訓は?

このような背景の下で今回のWinny裁判を見るとき、われわれはそこから何を学ぶべきだろうか? 

今回の判決で、Winnyというソフト自身に違法性はないと、裁判官もはっきり言っている。しかし、開発者がソフトを提供する際の法的な認識は問題で、場合によっては著作権法違反の幇助行為とみなされることがあると言う。Winnyの開発者は、「従来の著作権のモデルは今や崩れつつあり、それを後押ししてもいいのではないかと思う」という趣旨のことを言ったと伝えられており、これが問題にされたようだ。

検察も、こういう発言がなかったら、たぶん起訴には二の足を踏んだだろう。何せファイル交換ソフトは世の中に数多くあり、Winnyもその一つに過ぎないからだ。

これからは開発者も法的にどういう世界で活動しているかをよく認識し、不用意な発言は避けるべきだ。「技術バカ」を決め込んでいれば、法廷闘争に巻き込まれることも、刑務所行きなることもない、という考えは通用しない。

そして、上記のように裁判官もソフトウェア自身の違法性を問題にしているわけではないので、ガードさえ固めれば恐れることはなく、いたずらに萎縮する必要はない。

ファイル交換ソフトやそれを使ったサービスには国境がない。動画投稿サイトのYouTubeには日本、韓国、中国などからも多数投稿されている。また、追及をかわすため、違法なサーバを国外に設置しているケースもある。そのため、米国のFBI2005年に多数の違法コピー業者を摘発したときは14カ国に協力を仰いでいる。

こういう状況なので、本件については海外の関心も高い。米国に比べれば、著作権法違反の訴訟が遥かに少ない日本で本件が起きたことを驚きの目で見ている。米国では従来、ファイル交換ソフトの開発者は、民事訴訟で訴えられることはあっても、刑事責任を問われることはなかった。改めて日米の差を感じているようだ。日本の当局のやり方は行き過ぎで技術革新の妨げになると主張している人もいる。

今後の日本経済の発展のためには、諸外国に日本の事業環境を高く評価してもらって積極的に投資してもらうことが重要である。現在、日本の対内直接投資は他の先進諸国に比べ極端に少なく、政府もその増大に力を入れている。ただでさえ、商習慣や税制など、その妨げになる要因が多く、その撤廃が課題なのに、今回のような事件で日本の事業環境について悪印象を与えたら、現状の改善は望めない。

警察や司法の現場は、もちろん現在の法律の執行に全力を上げてもらわなければならない。しかし、著作権とコピー技術の関係は、技術の進歩に伴って各国で議論が繰り返され、新技術に対応してきたグレーな領域である。そして、インターネットの世界は一つなので、従来以上に各国が歩調を合わせることが要請される。そのため、高い立場からのこういう認識も必要である。

ここでも、「日本は世界の常識が通用しない、地球上の片田舎だ」と言われないように努める必要がある。


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