No.608 酒井ITビジネス研究所 酒井 寿紀 2006/11/12
いいことばかりではないWeb2.0
最近、「Web2.0」という言葉が新聞、雑誌を賑わしている。ブログ、SNS (Social Networking Service)、動画投稿サイトなどの出現により、一方通行だったウェブが双方向になり、一般ユーザーがどんどん情報を発信するようになったという。そして、一般ユーザーの経験や知識を動員して問題を解決することができるので、Web2.0は極めて大きい可能性を秘めているという。そうかも知れない。しかし、Web2.0はいいことだけなのだろうか?
ブログはゴミの山
ウェブの情報を検索エンジンで捜すとき、価値のないブログが検索結果の上位を占めて、目的のサイトがなかなか見つからず、いらいらしたことがある人が多いのではないかと思う。ブログは一般に相互リンクが多いので、検索結果の上位になりがちだ。
実態を実例で示そう。Googleで、「ららぽーと」と「豊洲」のキーワードで、最近できたショッピングモールの情報を捜してみる。検索結果の上位20件中、1番目はモールの公式サイトだが、2番目は削除済みのサイト、3番目と4番目は動画投稿サイトで、残り16件はブログである。公式サイト以外、正規のウェブサイトは一つもない。次に、ブログの中身を覗いてみる。「今日は『ららぽーと』へ行ってきました」というたぐいのものが多く、公式サイトを補足するような有益な内容はほとんどない。なかには、1行だけというものもある。参考にもならない写真をベタベタと貼り付けたものも多い。内容がない割には広告がやたらと多い。広告料稼ぎが目的なのだろう。
上記は一例に過ぎないが、このたぐいのブログが世の中に氾濫している。読みたくないブログは読まなければいいのだが、問題はこういうブログによって検索が妨害されることだ。もともとウェブは玉石混交の世界で、ウェブを活用するには石の中から玉を選り分けなければならない。ブログの出現によって石ばかり増え、玉を捜すのが宝探しのように難しくなってしまった。そのため、検索エンジンの「goo」にはブログを除外してウェブを検索する「ブログフィルター」という機能が用意されている。今後はこういう機能が他の検索エンジンにも求められるのではなかろうか?
SNSはギャルの溜まり場
SNSの中ではMySpaceが世界最大だという。2003年に設立され、今年8月には会員が1億人を越えたという。11月からは日本語版のサービスも始まった。
どんなものか調べるため、小生もこの8月に参加してみた。小生は趣味で水彩画を描いているので、「Watercolor Fan Club」というグループに入った。このグループの素性が分かる会員は現在19人で、女性が15人、男は小生を含めて4人だけだ。女性の年齢は20代、30代が各6人で、この世代が全体の80%を占めている。
これはごく一例に過ぎないが、20代の若い女性が占拠しているグループが多いようだ。自分の水着姿の写真をベタベタ貼り付けて喜んでいる。どうもわれわれが足を踏み入れる世界ではないようだ。
小生は、ウェブが普及しだした1996年に日本語と英語のサイトを立ち上げ、自分が描いた水彩画などを掲載して、日本と米国のYahoo!に登録した。すると、日本人からはほとんど反応がなかったが、海外からは何件もメールをもらった。そのうちの一人のボストン在住の女性は、絵を描いたり詩を作ったりして、息子に開設してもらったウェブサイトに掲載している。この人とは今でも時々メールを交換している。
しかし、現在のSNSの会員にこういう展開を期待するのは難しいようだ。
動画投稿サイトは悪趣味な愉快犯の集まり
動画投稿サイトの代表としてYouTubeの実態を紹介しよう。テレビ放送のハプニング・シーンが多数登録されている。ベテラン・アナウンサーが「ホワイトソックス」を「ホワイトセックス」と言い間違えて、慌てて言い直す場面。女性アナウンサーが「日銀の地下キンコ」を「日銀の地下チンコ」と言ってしまう場面。クイズ番組で椅子がひっくり返り、パンティーが丸見えになるシーン。等々。これらは日本人が投稿した日本のテレビ放送だが、もちろん、海外のテレビの同類のシーンもある。
視聴者さえ多ければ広告収入が確保できるので、内容は法に触れない限り何でもいいというのが動画投稿サイトの実態だ。しかし、投稿した映像の著作権はしばしば問題になっている。日本のテレビ局からのクレームでYouTubeは10月に3万本の映像を削除したため、上記のお宝映像(?)にも、もう見ることができないものがある。
下らない映像は見なければいいのだが、YouTubeのデータがIIJの日米回線を流れるデータの1/6を占めているというから驚く。
新技術は常に悪用される
もちろん、ブログにも有益なものがあるし、動画投稿サイトにも、一般のメディアでは見られないイラク戦争の前線の映像のような貴重なものもある。だが、本稿に記したようなものも多いのが、今をときめくWeb2.0の実態である。
しかし、例えば自動車の発明者は、暴走族や自動車強盗の出現、カーセックスの流行などを予想しただろうか? 新技術は常に発明者の予想を超える使い方をされる。そして、新技術が安くなり一般大衆に普及すれば、使われ方が低俗化するのは避けられない。テレビの普及が「一億層白痴化」を招くと言われたのもその例だ。ウェブの世界でのWeb2.0もこうした道を歩みつつある。したがって、社会全体としても個人としても、それによる被害を最小限に食い止めるよう努力する必要がある。
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