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No.606                     酒井ITビジネス研究所  酒井 寿紀                      2006/08/18


Google Earthにご用心!

 

Google Earthで何ができる?

最近、Google Earthが評判だ。まだ使ったことのない人のために、どんなものか紹介しよう。GoogleのサイトでGoogle Earthのソフトをダウンロードして実行すると画面上に地球が現れる。上下左右のボタンをクリックすると、地球が回転するので、自分が見たい場所を画面のほぼ中央に持ってくる。次にズームインのボタンをクリックすると、見たい部分が拡大する。あたかも人工衛星が地球に急接近するみたいだ。これを繰り返すと、目的地の航空写真が見られる。

ためしに、東京近郊の自宅を探すと、緑の屋根の家が見つかった。天窓まで確認できる。隣の駐車場のクルマの色も分る。ではちょっと、前にいたことがあるフロリダのモーテルを見てみよう。日本列島が小さくなるまでズームアウトし、上下左右のボタンを使ってアメリカまで飛ぶ。フロリダ半島に隣接する島の突端を捜すと、そのモーテルが見つかった。コの字型の建物の中庭にプールとヤシの木が見える。今度はロンドンに飛んで、バッキンガム宮殿に行ってみる。ちょうど、宮殿の前の通りを衛兵が行進しているところだ。見物人も点々と見える。次に、ボストンが特に分解能が高いというので、行ってみる。チャールズ川沿いのMITのキャンパスを見ると、すぐそばの鉄道の線路の枕木まで数えられる。葉が落ちた落葉樹の枝もはっきり見える。

真上から取った写真だけでなく、グランドキャニオンや大都会のビル街の3次元画像も用意されている。傾きと回転のボタンを使って、東西南北どの方向のどの高度から眺めるかを連続的に換えられる。飛行機の窓から眺めているのと同じ感じだ。ビルは現在灰色の立方体だけだが、将来は表面処理をしたものが見られるという。

そして、これらの航空写真に、道路、鉄道、行政の境界、ホテル、レストランなどの情報を重ね合わせることもできる。また、出発地と目的地を示せば、道順を航空写真上の線と、交差点での曲がり方の指示で教えてくれる。

Google Earthの正体は?

Google Earthは、Google2004年にKeyholeを買収し、同社が提供していたサービスの名前を変更して、2005年から現在の名前で提供を始めたものである。人工衛星や航空機から撮影した写真、3次元の画像データなどは他の複数の企業から提供を受けている。現在の写真の解像度は15cm15mだが、今後さらに解像度を上げていく計画だという。一般的に欧米の大都会は解像度が高く、アジア、アフリカなどは低い。写真はおおよそ3年以内に撮影したものを使っているという。

機密漏洩

このGoogle Earthについて最近二つの問題が起きている。一つは機密漏洩である。例えば、サンディエゴの海軍基地を見てみると、爆撃機、戦闘機、輸送機などが駐機している様子が分かる。ヘリコプターも多い。軍用機に詳しい人が見れば、型式もすべて分るだろう。空母が1隻停泊しているが、前には多かった軍用艦は他にほとんどいない。中近東などに出払っているのだろうか。

一方、ホノルルのパールハーバーの基地を見ると、入り組んだ湾の一角が完全に消されている。たぶん米国の太平洋艦隊の艦船が多数係留されているためだろう。

ソウルの青瓦台という大統領官邸は警備が厳しく、以前は、一般の人は前の道路も通行できなかった。しかし、Google Earthで見れば、青瓦台の中の建物の配置がすべて分る。

北京の故宮の西隣の中南海というところには政府高官の官邸が多数集まっている。小生は20年ほど前に一度この中に入ったことがあるが、高い塀に囲まれていて、外からは中がどうなっているのかまったく分らない。しかし、これもGoogle Earthで見れば、敷地のレイアウトが手に取るように分る。

確かに軍需施設などが見えすぎるのも問題だろう。韓国政府は機密漏洩について米国政府に懸念を表明したという。

プライバシーの侵害

もう一つの問題はプライバシーの侵害である。例えば、ベバリーヒルズのスターの大邸宅が並んでいる通りを見てみよう。前に行ってみて、敷地の道路に面した幅が意外と狭いのに驚いたが、Google Earthで見ると奥行が長く、奥にプールやテニスコートがある家が多いことが分る。角のひときわ広い敷地に建っている大きい家は、インターネット情報によるとジェームス・スチュアートの大邸宅のようだ。インターネットの情報と付き合わせれば、家の持ち主が分ってしまう。防犯上あまり好ましいとは言えない。フロリダのマイアミ・ビーチの一角にボカしたところがあるが、そこに住んでいる人に要求されたのではなかろうか。

Google Earthが使っているデータは他社から購入したものだ。したがって、そのデータ自身が持つ上記のような問題の責任は他社にある。しかし、そのデータを、北朝鮮政府からテロリスト、強盗に至るまでに、いとも簡単に無料で見られるようにしているのはGoogleだ。そして、Googleは今後もどんどん解像度を上げていくという。いずれどこかで歯止めが必要になるだろう。これ以上解像度が上がると、物干し台に干してある下着の色まで分ってしまうので、ご用心を!

しかし、Google Earth上には国境がない。パスポートもビザもなしに世界中どこへでも遊びに行ける。これは21世紀の人類の意識改革に貢献するかも知れない。


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