No.605 酒井ITビジネス研究所 酒井 寿紀 2006/08/14
Wikipediaを活用しよう!
哲学や自然科学の情報から芸能ネタまで
すでにしょっちゅう使っている人も多いと思うが、Wikipediaとはインターネット上の百科事典である。しかし、記載内容は一般の百科事典に載っている範囲をはるかに超える。例えば、普通の百科事典には載ってない裏話的情報も多い。「伊藤博文」や「松方正義」の項で、彼らの並外れた女好き振りが分り、英語版の「Franklin Roosevelt」の項で、この人と愛人との関係が詳しく分る。また、「吉田茂」の項には、この人のジョークの事例が多数紹介されている。
そして、最近設立された企業まで掲載されているので、動きの激しいIT企業や通信会社の企業分割や買収の状況などを調べるのに便利だ。また、製品についての情報も多い。例えば、ソニーの「PlayStation 2」、マイクロソフトの「Xbox」なども独立した項目を持っていて、その構成などの詳しい説明がある。芸能ネタも豊富だ。「山瀬まみ」の項では、彼女の身長が168cmあることが分る。
また、インターネットの特質を生かして、最新情報が反映されている。8月10日に調べたところ、「田中康夫」には8月6日の長野県知事選に落選したことがすでに記載されていた。また、「王貞治」には8月2日の手術後の記者会見まで載っていた。
このWikipediaは、現在200以上の言語のものがあり、合計460万以上の項目からなるという。そして、原則として誰でも一般のブラウザから内容の追加・修正ができる。こうして作成された情報は、米国のフロリダにあるサーバに蓄えられる。このサーバは寄付によって運営されるNPOが管理している。そのため、Wikipediaには広告の掲載はないが、世界中から誰でも無料で利用できる。この仕組みは2001年に運用が始まり、Jimmy Walesという人が運営の中心になっている。
事件発生!
このWikipediaに、昨年から今年にかけて二つの事件が発生した。その一つは、「ロバート・ケネディ司法長官の補佐官をしていたSeigenthalerという人 は、ジョン・ケネディ大統領とロバート・ケネディの暗殺に直接関与していたと一時疑われた」というニセ情報が4ヶ月以上に渡って掲載されていたというものだった。調査の結果、これは38歳の男のいたずらだと判明した。しかし、この事件は改めてWikipediaの記事の信憑性に疑問を投げかけた。
もう一つの事件は、イギリスの自然科学の雑誌Nature がWikipediaとEncyclopedia Britannicaの記事の信頼性について比較し、調査結果を昨年12月に報告したことだ。それによれば、自然科学系の42項目について両事典の記事を調査したところ、両者とも重大な誤りが4件あり、1項目当たりの些細な誤りは、Wikipediaが平均4件、Britannicaが平均3件で、両者の信頼性にはそれほどの差はないという。この報告に対しBritannicaは激しく反論し、Natureとの間で激論が交わされた。調査方法などに問題は残るが、これはWikipediaの信頼性をある程度裏書きした。
Wikipediaの問題点と使用時の注意
Wikipediaは便利だがたしかに問題もある。第1に、誰でも記事の追加・変更ができるため、その内容には記憶違いなどによる間違いがあり得る。これはどんなに権威ある百科事典でも同じだが、やはり量的有意差はあるだろう。したがってWikipediaは、ものごとの概略を把握するのには有益だが、それを使って原稿などを執筆するときは別途チェックする必要がある。そして、Wikipediaの記事の引用は避けるべきだ。
不注意によるミスだけでなく、Wikipediaはいたずらや悪意ある攻撃の危険にさらされている。その対策として、現在、日本語版では「小泉純一郎」、「安倍晋三」、「昭和天皇」、英語版では「George W. Bush」などの項目に鍵をかけ、一般の人が勝手に書き換えられないようにしている。これは一つの方法ではあるが、鍵の管理者と結託すれば、自分に有利なこと、他人に不利なことだけ書いて鍵をかけてしまうこともできる。したがって、鍵はできるだけ少ない方が健全である。現在「Wikipedia」という項目は、英語版、ドイツ語版、フランス語版、日本語版などで鍵がかかっているが、Wikipediaの管理者が「Wikipedia」に鍵をかけたら記述の中立性が疑われる。
第2に、全体の調整機能がないため、項目の抜け、類似項目間での内容の重複、項目間での記述の詳しさのアンバランスなどが避けられない。これも、どの百科事典についてもある程度は言えることだが、利用者はわきまえておく必要がある。
第3に、多数の人が相互に連絡を取らないで執筆するので、記述が不統一で読みにくい。例えば、英語版の「Bridge」の項では、橋の長さの単位にメートル、メートル(フィートを付記)、マイル(メートルを付記)などが混在している。これは、各国の人が自分の国の橋を勝手に追加したためにこうなったのだろう。単位の他にも、英米間での英語の使い方の違い、日本語の漢字かな混じり文の表記法などの問題もある。執筆ガイドラインの整備や管理者による修正である程度改善されるだろうが、こういう自由参加型のデータベース作りでは、それにも限界があるだろう。
ウェブサイトの利用状況を調査しているAlexaの統計によると、最近3ヶ月の利用者数で、Wikipediaは全世界のウェブサイトの16位だという。上記のようにいろいろ問題もあるが、Wikipediaの有用性は全世界で認められてきたようだ。したがって、その限界をわきまえた上で、どんどん使うべきだろう。そして、この人類史上例のない文化財をさらに発展させるためには、「書き換え戦争」が起きるぐらい、熱心なボランティアの執筆者が増えることが是非とも必要である。
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