No.603 酒井ITビジネス研究所 酒井 寿紀 2006/04/11
WiMAXはどうなる?
固定WiMAX製品が続々登場!
本誌No.503「WiMAXの登場でどうなる!」(2005/04/15)で、新しい無線通信技術WiMAXの状況について記したが、これはその後どうなっただろうか? 2005年7月から、スペインのマラガにあるCetecomが固定WiMAX製品の認定作業を進めてきた。そして、今年の1月から3月末までに8社の14製品がWiMAX Forumの認定を取得した。今後も続々と認定製品が登場する見通しである。
一方、正式に認定される前から、世界各地で固定WiMAXを使った商用サービスが始まりつつある。最近の事例から拾うと、Alvarionの機器を使ったペルー、ケニア、フィンランド、マダガスカルのシステム、Aperto Networksの機器を使ったインドネシアやウクライナのシステム、Redline Communicationsの機器を使ったクロアチアのシステム、Airspan Networksの機器を使ったドミニカのシステムなど、開発途上国や人口密度の低い地域を対象にしたものが多い。ADSLや光ファイバーが普及してない地域でブロードバンドのサービスを提供しようとするものだ。
商用サービスの事例の中には、NextNet Wirelessの機器を使ってClearwireが提供している米国の地方都市向けのサービス、Navivi Networksの機器を使ったイタリア、オーストラリア、アイルランドの地方都市を対象にしたシステムなど、先進国の事例もある。しかし、これらもやはりADSLや光ファイバーのサービスが行き届かない地域が主対象だと思われる。と言うのは、ブロードバンドが普及している先進国の大都会ではほとんど商用サービスが始まっていないからだ。唯一の例外は日本でのYOZANによるAirspan Networksの機器を使ったサービスである。
BT、AT&T、フランス・テレコム、ドイツ・テレコム、NTT、KDDIなど、世界中の大きな通信事業者もWiMAXの実験を始めている。しかし、これらの通信事業者で商用サービスを開始したところはまだない。その理由の一つは、WiMAX Forumが正式に認定した製品が現れ出したのは今年になってからであり、これらの企業にとって未認定製品を使ってサービスを開始するのはリスクが大きすぎたのだろう。そして第2の理由は、次に触れるモバイルWiMAXの規格の確定によってWiMAXへの対応戦略が難しくなってきたため、LSIや機器メーカーの対応状況をもう少し見極めてから判断しようとしているのではないかと思われる。これらの大通信事業者が対象にしている地域にも、今後のラスト・マイルの敷設にはADSLや光ファイバーよりもWiMAXの方がコストが安くなるところが多いはずだ。従って、いずれこれらの通信業者もWiMAXを使うようになると思われる。
モバイルWiMAXの規格が決定!
一方、列車やクルマで移動中も使えるモバイルWiMAXの規格が2005年12月に最終的に決定し、これを受けて各メーカーがその対応を発表した。
LSIメーカーでは、イスラエルのRuncom Technologies、フランスのSequans Communications、インド系の米国企業であるBeceem Communications、米国のTeleCIS Wirelessなどが製品を発表した。また、STMicroelectronicsやイギリスのpicoChip、カナダのWavesatは、従来の固定WiMAX用チップでソフトウェアの変更によりモバイルWiMAXの規格に対応すると発表した。そして長年に渡ってWiMAXの普及を推進してきたIntelは3月のIDF (Intel Developer Forum)で、今年後半にモバイルWiMAX用PCMCIAカードを出すと発表し、またノートパソコン用のWiFi/WiMAX兼用の無線チップも発表した。
機器メーカーでは、Airspan Networksがノートパソコン用のUSBアダプタを発表した。ベース・ステーションは固定WiMAX用のものをソフトウェアでアップグレードして対応するという。また、AlcatelもモバイルWiMAX用ベース・ステーションを発表した。しかし、他の機器メーカーにはまだモバイルWiMAXへの対応を明確にしてないところが多い。Alvarionは、ここ数年は固定WiMAXが重要な成長市場なのでそこに注力すると表明しているが、ほかにも同じ考えの企業があるのではないかと思われる。
モバイルWiMAXの課題は?
現在モバイルWiMAXに力を入れているRuncom Technologies、Beceem Communicationsなどは最近WiMAXの市場に参入し、固定WiMAX製品の販売実績がない企業だ。なぜ、固定WiMAX製品を販売中の企業にはモバイルWiMAXの市場への参入を控えているところが多いのだろうか? その一つの理由は、固定WiMAX製品の開発コストの回収が当面重要課題であることだが、それだけではないようだ。
現在固定WiMAXで使われている802.16-2004の物理層と新規に定められたモバイルWiMAXの802.16e-2005の物理層には互換性がない。そして、802.16e-2005には、固定WiMAXとして使った場合にも通信距離の拡大などのメリットがあるという。従って、将来的には新仕様によるベース・ステーションで、既設の固定WiMAX端末も含め、固定/モバイル両方のWiMAX端末と通信可能になることが望まれる。そのため、どういうステップを踏んでそういう世界に軟着陸させるかがこれからの検討課題のようだ。
こういう問題があるため、過去のしがらみがない企業はモバイルWiMAXに積極的だが、すでに固定WiMAXの顧客を抱えている企業には様子を見ているところが多いのではないかと思われる。
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