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No.602                     酒井ITビジネス研究所  酒井 寿紀                      2006/03/14


次期無線LANはどうなる?

 

次期無線LANの規格はその後どうなった?

本誌No.505非標準無線LANにご注意!?(05/07/18)に、次期無線LANIEEE 802.11nの規格について、TGn SyncWWiSE2グループが争っていると記した。その後、この2グループは共同でJoint Proposalをまとめ、20059月にIEEEに提案することにした。しかしその作業が遅れ、見通しが不明確になったため、IntelBroadcomAtherosMarvellが中心になってEWC (Enhanced Wireless Consortium)という団体を設立し、規格制定を強力に推進することになった。

その中心になったのはIntelのようだ。同社は20056月に次期無線LANの規格を想定した製品の技術的発表をしたが、一部のメーカーのように規格制定前にそれを発売することを避けるため、早く規格が制定されることを望んだのだと思われる。

このEWCの動きに対し、当初Airgoは猛反発した。「IEEEの枠組みの外でこういう非公式な団体を結成して規格制定を推進しようとするのはけしからん」というのが表向きの理由だが、Airgo“True MIMO”と称して使用している技術は今や802.11nの中核になる方向であり、それを使った製品の販売も順調に伸びているので、他社のように正式な規格制定を急ぐ理由がなかったためと思われる。それどころか、正式な規格制定が遅れれば遅れるほど、それまで製品の発売を差し控えるメーカーに対してAirgoは先行者利益を享受できるという見方もできる。

また、今後無線LANの主力ユーザーになる携帯電話や家電品のメーカーもEWC案に対し異議を唱えた。それは、これらの製品はパソコンに比べ、小型化、省電力化に対する要求が厳しいためである。EWCはこれらのメーカーの要求を大幅に取り入れ、同調者を増やし、規格制定を急いだ。

このようにEWCは規格の早期制定を優先し、最後にはAirgoも賛同して、20061月のハワイでのIEEEの会合で全会一致でEWC案が採択された。この3月にはドラフトの初版が発表される予定である。

企業の対応は?

119日のIEEEの会合でEWC案の採用が決まると各社は一斉にそれに対応した新製品を発表した。

Broacomは同日Intensi-fiというLSIファミリを発表した。それは802.11nのドラフト案の必須項目をすべて満足し、ソフトウェアの変更によって最終仕様も満足するようにできるという。そしてすでにそのサンプルを出荷中ということだ。

Marvell120日に、200510月に同社が発表したLSI802.11nのドラフトを完全に満足し、その顧客は今年第1四半期に製品を出荷できるだろうと発表した。

Atheros123日に、1月初めのCES (Consumer Electronics Show)で展示したAR5008というLSIファミリは802.11nのドラフトを満足し、すでにサンプルを出荷中であると発表した。

Intel3月初めのIntel Developer Forumで、“Santa Rosa”というノート・パソコン用の次期LSIファミリを2007年前半に発売すると発表した。それには“Kedron”という802.11n対応のアダプタが含まれるという。

そして、802.11nのドラフト案で採用された空間分割のMIMOを使用した製品を従来から販売しているAirgoCEOGreg Raleigh1月はじめに次のように言っている。「Airgoが使っている技術が標準規格に採用されようとしていることは喜ばしい。これは消費者や機器メーカーにとって、そして何よりAirgoにとって大変好ましいことだ。なぜなら、われわれは製品開発で2年他社に先んじており、強力な知的財産権を保有しているからだ」1) 802.11nに最も近かったAirgoは余裕を見せている。

こうして列強が勢ぞろいし、802.11nの世界で新たに戦いの火蓋が切られた。

今後何が問題か?

802.11nの規格は今年末か来年初めに最終的に制定されるだろうと言われている。長期間に渡って続いた権力闘争は、こうしてめでたく一件落着するのだろうか? いや、話はそれほど単純ではないようだ。

EWCは家電メーカーの仕様簡素化の要求を入れて多重度1MIMOをオプションとして認めた。また、Atherosが以前から実施している送信ビーム・フォーミングや40MHzの帯域幅などもオプションになった。EWCは規格制定を急ぎ、メンバーの要求の多くをオプションにしたので、オプション数がやたらと増えた。そのため、どのオプションの組み合わせに対し相互接続性を保証するかが今後の大きい課題である。

相互接続性の保証範囲を広げれば、家電製品や携帯電話などの負担が大きくなり、逆に、その負担の軽減を優先すれば相互接続性の範囲が狭まる。そして、例えばAtherosにとっては従来サポートしている送信ビーム・フォーミングや40MHzの帯域幅をサポートしなければ既出荷製品との間での相互接続が問題になるが、これらのオプションを実施するメーカーは限られるかも知れない。

いずれにしても、同じ802.11nと言っても、相互接続性が保証されるいくつかのグループに分かれることになりそうだ。ユーザーはどのグループが優勢になり、どのグループが劣勢になるかをよく見極める必要がある。

 1) “AIRGO True MIMOTM Installed Customer Base Continues Dramatic Growth as  Industry Standardization of MIMO Technology Nears” Press Release, Jan.4, 2006, Airgo


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