No.601 酒井ITビジネス研究所 酒井 寿紀 2006/02/04
テレビ放送はどうなる?
「リアルタイム視聴」から「タイムシフト視聴」へ
従来は、テレビを見るには現在放送されているものを見るしかなかった。つまり、「リアルタイム視聴」しかできなかった。
しかし、ビデオ・テープ・レコーダー(VTR)が出現して、これが変わった。テレビの放映時間に見られないときは、VTRに録画しておいて後で見るようになった。つまり、視聴時間を自分の都合に合わせてずらすわけで、「タイムシフト視聴」の始まりである。
VTRはその名の通り記録媒体にテープを使うので、長時間に渡って多数の番組を録画することはできない。そして、録画された番組の中から見たいものを捜すのが面倒だ。しかし、これらの問題はHDDレコーダーの出現で解決した。現在日本でDVDレコーダーとして販売されているものは、一般にDVDにもHDDにも録画できるが、テレビの視聴方法に大きなインパクトを与えたのはHDDレコーダーの機能である。数万円のHDDレコーダーを買えば100時間を超える録画ができる。例えば、週末に次の1週間の見たい番組の録画を予約しておけば、都合がいい時にそれを見ることができる。そして、わずらわしいテープの操作も要らない。
こういう視聴方法をさらに便利にするため、EPG (Electronic Program Guide:電子番組ガイド)というものが出現した。テレビ電波の隙間を使って何日分かの番組表が送られ、HDDレコーダーのユーザーは、テレビの画面でその番組表を見て見たい番組を予約する。もはや8桁のGコードを入力する必要はない。ケーブル・テレビでも、EPGを使って何十チャネルもある番組の中から見たいものを録画することができる。ケーブル・テレビのセット・トップ・ボックスで予約すればHDDレコーダーの録画機能と連動し、一つの操作で両方の機器に予約を登録できるものもある。
米国のTiVoという会社は、視聴者が自分の好みの番組や出演者を登録しておけば、全国の地上波、衛星放送、ケーブル・テレビの番組からその条件に合ったものを探して録画予約するサービスを提供している。いわばEPGの拡張版の有料サービスだ。
こうしてタイムシフト視聴は第二世代に入った。
テレビ局側にもこのタイムシフト視聴を前提とした動きが見られる。
例えば、「ヒストリーチャンネル」というケーブル・テレビは、この正月にNHKの「プロジェクトX」と「そのとき歴史が動いた」の再放送をそれぞれ24時間ぶっ通しでやっていたが、これなどタイムシフト視聴を利用しなければとても見ることができない。
また2003年から、放送事業者が中心になって、「サーバ型放送」という受信側のサーバにいったん蓄えて視聴する放送を検討している。番組内容のダイジェストや出演者の情報をメタデータとして添付することなどが検討されている。
そして、「オンディマンド視聴」へ
ブロードバンド回線でのインターネット接続が一般化し、ニュースの映像などの配信が始まった。そして、インターネットを使って映画やテレビ番組を配信する企業が現れた。これは、視聴者が見たい番組を選択してダウンロードして見る「オンディマンド視聴」であり、ビデオ・オン・ディマンド(VOD)とも呼ばれる。
デジタル・ネットワーク・アライアンス(DNA)は、2004年7月に専用端末を介して有料で映像を配信する「でじゃ」というVODサービスを開始した。そして、USENは2005年4月に、無料でパソコンに映像を配信する「GyaO」(ギャオ)というVODを開始した。これはコマーシャル収入でビジネスを成り立たせるものだ。また、フジテレビは2005年7月に、配信会社を介して有料で映像を提供するサービスを開始した。そして、日本テレビも第2日本テレビを設立して、2005年10月に、パソコンに有料で映像の配信を始めた。このように、有料/無料、専用機器の要否、コンテンツ所有者と配信会社の関係などの違いによるさまざまな形態のVODが現れている。
今後はどうなる?
HDDレコーダーとEPGの出現によってタイムシフト視聴が安く簡便にできるようになった。そして、タイムシフトで視聴すれば、放映時間に縛られることなく、見たいときに見て、いつでも中断できる。また、聞き漏らした部分の繰り返し再生、コマーシャルや予告編の割愛も自由にできる。従って、今後はタイムシフト視聴の利用者が増えるだろう。
タイムシフトで見るなら、できるだけ多くの番組の中から選択できることが望ましい。そのため、タイムシフト視聴の増加に伴って、チャネルが多いケーブル・テレビの需要が増えると思われる。こうして、限りなく多くの番組からの選択が要求されると、行き着く先はオンディマンド視聴だ。
リアルタイム視聴から、タイムシフト視聴、オンディマンド視聴へと変わるとテレビ番組の制作にも変化が起きると思われる。ニュース、スポーツ中継、国会中継、そして、ながら族向けの各種バラエティ番組などは、主としてリアルタイム視聴向けの番組として、現在のまま残るだろう。一方、ドキュメンタリーやドラマはタイムシフトやオンディマンドで視聴されることが増える。そのため競争相手が増え、質の低いものは視聴者が減るので、制作費が増えても質の向上を図るようになるだろう。このようにして、テレビ番組は「使い捨て用」と品質の高い「保存用」とに分かれて行くと思われる。
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