No.508 酒井ITビジネス研究所 酒井 寿紀 2005/12/21
安物買いで銭ためよう!?
ユニデンやノジマが激安テレビを発売
現在、日本の一般の電機メーカーの液晶テレビの価格は1インチ当たり1万円弱で、32型だと20〜30万円程度だ。ところが、ユニデンという主としてコードレス電話機を北米で販売しているメーカーが今年10月に32型を12万9800円で発売した。1インチ当たり約4千円で、市価の半額である。この液晶テレビは、HDTVのチューナーは内蔵してないが、その他の基本機能については他社製品と同等である。台湾製の液晶パネルと日本の電機メーカーの画像処理LSIを使うことによって開発費を軽減し、インターネットによる直販のみにして流通経費を抑えてこの価格を実現したという。
しかしこの価格は海外市場の市価に比べれば特別安いわけではない。例えば、米国のウォルマートのオンライン販売は、韓国の現代製や台湾の大同製の32型の液晶テレビを948ドル(約11万円)で売っている。これらの製品もHDTVのチューナーを内蔵してないが、その他の基本機能については日本の高い製品とほぼ同等である。そして日本でもノジマが10月に現代製の32型液晶テレビを9万9800円で売り出した。
この日本と海外の価格差は何もテレビに限らない。例えば米国のヒューレット・パッカードは、3GHzのCPU、256MBのメモリ、80GBのハード・ディスクがついたデスクトップ・パソコン(モニターは別売り)を309ドル(約3万6千円)で売っている。これも日本の同等品の半値に近い。
なぜ日本は高いのか?
なぜ日本の製品はこのように高いのだろうか? その理由の一つは日本人の高機能・高性能を求める高級品志向にある。メーカーはそれにつけ込んで、使いもしない機能をゴテゴテつけ、不必要に高い性能の製品を高価格で売りつけようとする。
そして、日本人のブランド志向がもう一つの理由だ。いわゆる有名ブランドが好きで、値段が少々安いぐらいでは聞いたこともないブランドの製品は買おうとしない。車や装身具と違って電気製品は他人に見せる機会があまりないので、ステータス・シンボルとしての意味もないのだが。
また、アフター・サービスに対する要求が非常に強いためもある。サービスがいいということは、それだけコストがかかっていることで、メーカーはそれを製品価格に転嫁せざるを得ない。手厚いサービスを取るか低価格を取るかの二者択一なのだが、日本の消費者はコストのことは忘れてサービスに悪さを責めることが多いようだ。
小生が今使っている2台のパソコンは、パソコンショップが組み立てたものは別にして、メーカー品としては当時最も安かったものである。問い合わせや修理に対するサービスの悪さが不評だったメーカーの製品である。しかし、デスクトップ型は約4年、ノートブック型は約2年半使っているが、ハードウェアの問題はまったくない。
プロセッサやメモリなどのパソコンの部品は、どのメーカーも同レベルの部品を外部から調達しているので、性能や信頼性にそんなに差が出るわけがない。そしてパソコンはエレクトロニクス製品なので、どんなに高価な製品でも必ずある確率で故障する。確かにサービスはいい方がいいが、サービスがいいということは、的を得ない質問をしてくるユーザーに対応するために抱えている要員の人件費をすべて負担させられるということだ。
そう考えると、とても高価な製品を買う気にはならない。しかし、こういう考え方をする人は日本には少ないようだ。
平和な時代は続くか?
日本のユーザーが、値段が高くても高品質な製品を求め、メーカーがそういう製品を提供することによって高利益を確保しているなら、大変結構なことだ。しかし、こうして両者とも喜んでいる時代は今後も続くだろうか?
「価格.com」のサイトを調べれば、前記のユニデンやノジマのほかにも32型で10万円前後の液晶テレビを売っているところが多数ある。聞いたこともないブランドが多いが充分実用に耐えるものもあるだろう。世界のマーケットは一つになりつつあるので、米国や韓国で買えるものが日本で買えないわけがない。
日本の消費者も自分たちが高いものを買わされてきたことにやがて気がつくだろう。メーカーは機能や品質が違うと言うかも知れないが、実用に耐えれば安い方がいいと言う人も多いはずだ。日本のメーカーにとって平和だった時代は終わるだろう。
今後生き残るメーカーは?
平和な時代が終われば、国際的価格競争力を維持できるメーカーだけが生き残れる。おもな競争相手は韓国、台湾、中国などのメーカーになるだろう。平和だった時代の家電メーカーが生き残れるかどうかは分らない。前記のユニデンは家電専門の子会社を設立して家電業界への本格的参入を図っている。船井電機はAV製品のメーカーで、DVDプレーヤでは北米で50%以上のシェアを占めているという。05年度上期の売上の90%は海外だが、日本国内でも実用的な低価格製品が要求されることが明確になれば、当然国内市場での販売にも力を入れるようになるだろう。
「安物買い」で国際競争力アップを!
「安物買いの銭失い」と言われるが、ことエレクトロニクス製品に関してはこの格言はあまり当てはまらない。今後エレクトロニクス製品を買うときは「安物買いで銭ためよう」という新格言(?)を実行しよう。その方がもっと有益なカネの使い方ができ、かつ日本のメーカーの価格競争力アップにも貢献できるからだ。
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