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No.506                     酒井ITビジネス研究所  酒井 寿紀                      2005/07/31


これでいいのか? サイボウズ

 

日本のグループウェアのシェアは、IBMLotus Notes1位で、サイボウズの製品が2位だ。しかし、Lotus Notesのシェアは近年下がりつつあるので、近いうちにサイボウズの製品がトップになる可能性もある。サイボウズは、1997年に、当時30歳だった高須賀 宣氏ほか2人が始めた企業で、競争の激しいITの世界で、創業以来717%の売上高純利益率を維持している。この高利益率をもたらした経営の秘密は何なのだろうか? そして、その経営戦略には、今後も問題はないのだろうか?

製造・物流・営業・在庫のコストがゼロ

サイボウズの成功は、先ずその製品にある。同社の創業年当時のグループウェアは、クライアント側に専用のソフトを使うものが一般的だったが、サイボウズはクライアントにブラウザだけを使い、使い勝手がよくて応答が速い製品を開発した。

しかし、サイボウズの特徴は製品だけではなかった。販売はインターネットでのダウンロードだけにし、CDや印刷物の製造や物流コストをゼロにした。モノがないため、在庫管理のコストもかからず、棚卸資産のためにカネを寝かせる必要もなかった。そして、インターネットによる販売だけのため、営業要員も不要だった。こうして、20021月期までは、毎期12%以上の売上高純利益率を達成した。

サイボウズの当初の製品である「サイボウズOffice」は、企業の各部門が独自に導入することを想定したものだった。しかし、同社は、企業全体で使いたいという要求に応じて、20029月に「サイボウズ ガルーン」という大規模なグループウェアを発売した。これは、従来の直接販売だけでは販売が困難なため、インテグレータ経由の間接販売を導入した。そして、20042月には「サイボウズOffice」も間接販売の対象にした。また、今年7月には、間接販売の対象を全製品に広げ、販売支援体制を強化した。つまり、一般のソフトウェア・ベンダーの販売制度に転換したのである。

この販売方法の転換により、当初のビジネス・モデルは崩れ、20031月期以降の売上高純利益率は79%に下がった。では、このビジネス・モデルの転換は失敗だったのだろうか?

企業が使うソフトウェアは、一般に多数の製品を組み合わせて使うので、製品の選定や相互接続の作業を専門のインテグレータに依頼するのが普通だ。グループウェアのように日常業務の中核を占めるものについて、各部門が勝手に各社の製品を導入したら、全社的なシステムの構築がうまくできず、企業全体としての効率向上が図れない。そのため、直接販売は、グループウェアのような製品にはなじまない。従って、当初の利益率の高さは「できすぎ」で、間接販売を始めてからの利益率の方が、本来の姿を現していると見るべきだ。間接販売への転換は失敗だったのではなく、むしろ遅すぎたのだ。

海外戦略が難航

サイボウズは早くから海外への展開に力を入れ、2001年に米国法人を設立し、2002年には英語版グループウェアの販売を始めた。しかし、その売上は伸びず、ピークでも全体の2%程度に過ぎなかった。そのため海外戦略を見直し、昨年12月に米国法人を解散した。そして、今年1月から新たに10ヶ国語に対応したグループウェアの販売を開始し、今度は、タイ、インドネシアなどの市場の開拓に力を入れるという。

少なくとも今迄のところ、海外展開は業績に貢献していない。では、今迄の海外展開は間違っていたのだろうか? そして、今回の方針の変更はいいのだろうか?

ソフトウェアのコストは大半が開発費だ。従って、シェアが大きい企業が圧倒的に有利である。そして、OS、データベース、グループウェアなどの基本的なソフトは全世界で共通に使えるので、大事なのは全世界でのシェアだ。欧米の言語と日本語で違いが大きいワード・プロセッサでさえ、一太郎はマイクロソフトのWordに太刀打ちできなかった。従って、現在日本ではサイボウズが大きいシェアを占めていても、海外に強力な製品が現れれば、あっという間に日本の市場も奪われてしまう恐れがある。

それを避けるには、全世界で大きいシェアを確保するしかない。従って、サイボウズの当初の海外展開の方針は正しかった。しかし、今回の「先ず東南アジアから」という方針は疑問だ。たとえ東南アジアへの進出に成功しても、全世界のシェアから見れば、取るに足らないからだ。やはり、欧米への進出を図るべきだ。それには、国内同様、間接販売に力を入れて、欧米の強力な販売パートナーの力を使うことだ。

ポータルサイト事業への参入

サイボウズの社長は今年4月、高須賀氏から青野慶久氏に替わった。そして、新たに「サイボウズNET」というビジネスマン向けのポータルサイトを開設し、ヤフーなどと同様に、広告料収入の獲得を図るという。将来はソフトウェア事業との相乗効果も狙うということだ。しかし、この事業展開はいいのだろうか?

最近は、企業の日常業務の入口となるウェブ・ページである「企業情報ポータル」が使われだし、それはグループウェアの機能も包含するようになった。そして企業情報ポータルは「ウェブ・サービス」という標準インターフェースで、さまざまなアプリケーション・ソフトを呼び出して実行するようになりつつある。従って、サイボウズは、今後、従来と違う土俵で、違う相手と戦わなければならなくなる恐れがある。

このような事業環境なので、サイボウズにとっては、広告料を収益源とするポータルサイトなどより重要な仕事があるように思う。ソフトウェア事業で生き残れる可能性がある数少ない日本の企業の一つとして、道を誤らないように祈る次第である。


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