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No.503                     酒井ITビジネス研究所  酒井 寿紀                      2005/04/15


WiMAXの登場でどうなる?

 

今年の210日に、鷹山がWiMAXを使った新しい通信サービスを発表した。同社は2002年に、東京電力グループの東京通信ネットワーク(TTNet)からPHS事業を買い取り、PHSを使った無線通信サービスを提供してきた。このサービスを、今後WiMAXに切り替えていくという。WiMAXとはどういうもので、今後の通信の市場でどういう位置づけになるのだろうか?

WiMAXとは?

 現在携帯端末に使われている無線通信技術には、先ず、第2世代や第3世代の携帯電話がある。その通信速度は、第3世代であるNTTドコモのFOMAが最大384kbpsで、2006年にサービスが始まるというHSDPA (High Speed Downlink Packet Access)でも実効的には23Mbpsであり、ADSLや光ファイバに比べれば遅い。一方、無線LANの通信速度は、802.11bが最大11Mbps802.11a/802.11gが最大54Mbpsと速いが、電波の到達距離が数10m程度なので、一つの建屋の中でしか使えない。

そのため、無線LANの速度と携帯電話の到達距離を兼ね備えた無線通信技術が期待され、いろいろな方式が検討されている。その一つが802.16で、2001年にIEEEによって当初の仕様が制定されたものである。これは、約50km程度離れたところで、約70Mbpsでのデータ転送ができるもので、その詳細を定めた802.16-2004という規格が20046月に制定された。この規格では、移動中の通信はできないが、2006年には802.16eという移動中も使える規格が制定される予定である。

そして、802.16の普及を推進する業界団体として、20016月に、WiMAX Forumが設立された。WiMAXとは「Worldwide Interoperability for Microwave Access」の略である。この団体が今後各社の製品の本規格への適合を認定することになる。

では、現在どんな企業がWiMAXに取り組んでいるのだろうか?

部品メーカーとしては、IntelWiMAX Forumに議長を送り込んで、社を挙げて力を入れている。現在Rosedale(開発コード)というWiMAXの顧客宅内装置用のLSIを開発中で、今年4月に東京で開催されたIDF (Intel Development Forum)にサンプルを展示していた。そして、802.16eの規格制定にあわせて、2006年以降ノート・パソコン用や携帯電話用のLSIを出すという。現在のWi-Fiのように、将来WiMAXがノート・パソコンの標準機能になることを目指している。また、富士通マイクロエレクトロニクス・アメリカも2005年にWiMAX用のLSIを出荷するとのことだ。

装置メーカーとしては、英国に開発拠点を持つAirspan Networks、イスラエルのAlvarion、米国のAperto Networks、カナダのRedline Communications、フランスのAlcatelなどがIntelLSIを使った製品の出荷を計画している。そして、カナダのWi-LANは、富士通と協力してWiMAXの製品を開発中という。今年から来年にかけて、これらのメーカーからWiMAXに対応した製品が続々と現れるものと思われる。

通信事業者としては、米国のTowerStreamが、IP電話用のWi-Fiのアクセス・ポイントに対する802.16に準拠した無線通信サービスを、米国の5都市で試験的に提供している。将来はこれを正規のWiMAXに切り替える計画である。そして、日本では鷹山が、Airspanの製品を使って、今年6月からフィールドテストを開始し、12月には商用サービスを開始するという。また、英国のBT4つの地方都市ですでに試験サービスを行っており、米国のAT&Tも今年から試行を始めるという。

WiMAXの出番はどこ?

このように多くの企業がWiMAXに取り組んでいるのは、WiMAXがいろいろな新しいビジネスの可能性を秘めているからだ。

先ず一つは、インターネットの加入者回線として使える。先進国の大都市圏では、ADSLや光ファイバが普及しているが、全世界で見れば、ほんの一部に過ぎない。WiMAXを使えば、ADSLなどのインフラがないところでも、高速のインターネット接続が可能になる。従って、WiMAXは、先ず開発途上国や僻地から普及する可能性が大きい。また、すでにADSLなどが普及しているところでも、新興企業が低価格のWiMAXで殴り込みをかけ、ADSLなどからシェアを奪う可能性がある。軌道に乗れば、基地局の装置が200万円程度で、ケーブルの敷設費用がかからず、顧客宅内装置が3万円程度になると言われているからである。

そして、移動通信用の802.16eが制定されれば、ノート・パソコンやPDAのインターネット接続に、Wi-Fiや携帯電話回線の替わりに使われる可能性がある。そうなれば、ホット・スポットを捜しまわらなくても済むし、携帯電話の高額なデータ通信料を払わなくてもよくなる。Intelはそのための次期ノート・パソコン用LSIを開発中だ。

それだけではない。WiMAXを使った通信が安い理由の一つは、バックボーンから端末まで、データ/音声/映像、すべての通信にIPが使われるからである。音声はネットワーク上のデータの1種に過ぎなくなる。従って、WiMAXは携帯電話にも使われる。Intelは、2007年には携帯電話用のWiMAXLSIを出すという。

そのため、現在携帯電話で飯を食っている企業はうかうかしていられない。NokiaWiMAX Forumの設立メンバーの1社だが、昨年一時脱退し、翌月にすぐ再加入した。これは、同社のWiMAXへの対応の戸惑いを端的に示しているのかも知れない。下手をすると、現在の携帯電話の覇者は、WiMAXの新興企業にやられてしまう恐れがある。そして、開発途上国や僻地のインターネット接続の方が、先進国の大都会より、安く、高速になってしまう可能性もある。


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