No.501 酒井ITビジネス研究所 酒井 寿紀 2005/02/06
Itaniumはどうなる?
Itaniumは、ヒューレット・パッカード(HP)とインテルにより1989年以来共同で開発が進められ、次世代を担うマイクロプロセッサとして期待されてきた。そして現在、HPのほか、デル、IBM、SGI、ユニシス、富士通、NEC、日立などがサーバーに使っている。ところが、最近あまりかんばしくないニュースが多い。
開発が2年遅れ、販売目標は大幅に未達、そして・・・
当初Itaniumは1999年に量産出荷が始まる予定だった。しかし、それは2年遅れて、性能が不充分な800MHzのものが量産に入ったのは2001年だった。そして、性能が改善されたItanium 2は2002年になってやっと量産が始まった。
1999年には、インテルは、2002年にサーバーの42%がItaniumになるだろうと予想していた。1) ところが、2003年になってもItaniumは10万個しか出荷されなかった。現在サーバーの約90%に86系のマイクロプロセッサが使われており、残り10%をItaniumとIBMのPower、サン・マイクロシステムズのSPARCなどが占めている。
IDCは2000年には、Itaniumを使ったサーバーの売上が2004年に280億ドルになると予想していた。しかし、2004年1月には、2007年になっても75億ドルにしかならないだろうと、予想を大幅に下方修正した。2)
そして、2004年9月に、HPが今後のワークステーションをItaniumから86系に切り替えると発表した。
また、マイクロソフトは2004年年11月に、2005年にリリースする、128プロセッサまでサポートするサーバー用Windowsについて、最初のバージョンは86系のみで、Itaniumはサポートしないと発表した。
また、サン・マイクロシステムズはSolarisをItaniumでも使えるようにすることを検討していたが、2004年11月に、CEOのマクニーリはそれをやめると表明した。
そして、2004年12月にHPは、Itaniumの開発から撤退し、その開発部隊をインテルに移籍させると発表した。
今や、Itaniumは息も絶え絶えだ。Itaniumはこのまま衰退してしまうのだろうか?
サーバー用のプロセッサの市場全体を見ると・・・
現在最も優勢なのは、インテルとAMDによる86系である。これは32ビット・アーキテクチャだったが、AMDが2003年4月に64ビットのOpteronを発表すると、インテルも市場の要求に逆らえず、2004年2月にXeonの64ビット版を発表した。
IBMは高性能サーバーにPowerというRISCプロセッサを使っている。Power系のプロセッサはBlue Geneといスーパーコンピュータや、iSeriesというAS/400の後継製品にも使われ、また、任天堂やソニーのビデオ・ゲームにも使われている。従って、Powerは高性能なプロセッサとして当分生き残るだろう。
HPはPA-RISCというRISCプロセッサを使ってきたが、2005年には新規開発をやめるという。また、旧DECのAlphaはすでに開発をやめ、Itaniumへの移行を進めている。
SGIはMIPSのプロセッサを使っていたが、MIPSは高性能プロセッサの開発をやめ、SGIの新しいサーバーはItaniumを使っている。
サン・マイクロシステムズはSPARCというRISCプロセッサ使っている。しかし、今後のSolaris/SPARCの出荷台数がSPARCの開発費を正当化することができるかどうかは問題である。もし正当化できないなら、かつて検討した、SolarisをItaniumやPowerでも使えるようにする案を再検討する必要が生じるだろう。
そして、サーバー用プロセッサとしては、まだメインフレームが大量に使われている。このメインフレームに取って替わるプロセッサが今後必要になる。
いずれにしても、今後も、弱肉強食でプロセッサの淘汰が進むことは間違いない。
Itaniumはどうなる?
上記のプロセッサの中で、将来のサーバーを担える可能性があるのは86系とPowerとItaniumと考えられる。
しかし、86系は1971年に世に出た4004以来のしがらみを引きずっていて、その将来性には限界がある。そして、Powerはシステム・メーカーであるIBMの製品なので、ほかのシステム・メーカーは使うのに抵抗がある。
一方、Itaniumは、これらの中では最も新しく、命令の並列実行に適したEPIC (Explicitly Parallel Instruction Computing)という進んだアーキテクチャを採用している。そして、HPがItaniumの開発から手を引いたため、ほかのシステム・メーカーが使いやすくなった。
インテルは、2007年頃にはItaniumがサーバー用の86系と同等の価格で2倍の性能になると言っている。3) もしそれが実現すれば、ハイエンド・サーバーのかなりの部分がItaniumになるだろう。ただ、低価格の実現には生産量の確保が必要で、両者は鶏と卵の関係にある。これをインテルが戦略的に乗り越えられるかが鍵である。
これらの事情から、Itaniumは、当初の計画に比べれば遅れに遅れたが、今後勢力を盛り返す可能性が高いと思われる。
1) 「インテル新生 『Itanium』に託す」 日経エレクトロニクス、1999年11月29日
2) “IDC pessimistic on Itanium shipments” ITFacts.biz, Jan. 24, 2004
3) “HP ponders less-glorious Itanium future” CNET news.com, June 28, 2004
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