No.408 酒 井 寿 紀 2004/12/12
スーパーコンピュータの市場をIBMが席巻?
Blue Gene/Lが世界一に
「TOP500」というウェブサイト1) が、世界中のスーパーコンピュータの性能を測定して、年に2回上位500システムを公表している。2004年11月に発表されたTOP500の最新版のリストで、IBMのBlue Gene/Lという新機種の試作機がその第1位を占めた。これが、従来第1位だった35.9テラフロップス(TFlops)の、NECによる地球シミュレータセンターのシステムを抜き70.7 TFlopsを達成したという。
これは何を意味し、スーパーコンピュータの世界は今後どうなるのだろうか?
スーパーコンピュータの歴史を振り返ると
1970年代から90年代にかけて、スーパーコンピュータは、専用のハードウェアを使うものが主流だった。しかし、90年代の末から、パソコンやサーバーのマイクロプロセッサを大量に使って高性能を実現する、クラスタと呼ばれる方式が一般化した。
TOP500によると、Intelのマイクロプロセッサを使ったスーパーコンピュータは、2002年11月には上位500システム中55だったが、2004年11月には320になったという。そして、クラスタと称しているものは、2002年11月には上位500システム中93だったが、2004年11月には296になったという。このように、現在は汎用のマイクロプロセッサを使ったクラスタがスーパーコンピュータの主流を占めている。
何故クラスタか?
コンピュータの演算性能は次の式で表わされる。
プロセッサの動作周波数 × I/C × プロセッサ数 × (実効性能/理論性能)
ここで、I/C (Instruction / Cycle)とは1サイクルに実行される命令数で、汎用のマイクロプロセッサでは、高性能のものでも2か4である。そして、プロセッサの動作周波数は現在のトップ・クラスのものでも3 GHz程度で、これを飛躍的に上げることは難しい。また、(実効性能/理論性能)は一般に0.5〜0.8程度で、これを1以上にすることは不可能だ。
ところが、プロセッサ数は、金をかけ、大きくなることをいとわなければ、いくらでも増やせる。そして、汎用のマイクロプロセッサがどんどん高速化し、量産効果で安くなった。従って、これを大量に並べてスーパーコンピュータを実現するのが、技術的にも経済的にも一番有利になったのである。
何故Blue Gene/Lか?
例えば、一時世界のトップの座を占めていた、ローレンス・リバモア国立研究所の「ASCI White」というシステムは、IBMのPowerプロセッサを8,192個使って7.3 TFlopsの性能を実現している。しかし、その床面積は約870uで、バスケットボールのコート2面分だという。2) それでも、これはSP Power3というスーパーコンピュータとして設計されたものなので、この程度で済んだのだ。一般のパソコンやサーバーを並べてクラスタを構成したものはさらに広い床面積を占めることになる。
それに対し、最大構成のBlue Gene/L は、360 TFlopsとASCI Whiteの約50倍の性能だが、床面積は約130uと、その約1/7で、テニスコートの半分程度だという。2) Blue Gene/Lは0.7GHzのPower系のプロセッサを使っている。プロセッサ2個をLSI 1チップに収め、2チップをモジュールに搭載し、16モジュールをシャシに収め、32シャシをラックに収容しているという。2) 従って、ラック1台に2,048プロセッサが搭載される。70.7 TFlopsを記録した試作機は、ラック16台、32,768プロセッサからなる。ラックの寸法は幅0.9m、奥行0.9m、高さ1.8mだというので、3) 最大構成の64台並べてもテニスコート半分に収まりそうだ。
大きさが小さいということは建屋の占有面積が狭くて済むだけでなく性能上も重要である。例えば、10mの電線を電気信号が伝わるには約30nsかかるが、10 TFlopsのコンピュータにとって、これは30万回の演算を実行する時間に相当する。
汎用のマイクロプロセッサのクラスタでは、もう大きさも限度を超え、性能の飛躍的向上も望めない。そこでBlue Gene/Lのようなプロセッサの実装技術や冷却技術が必要になってくる。
スーパーコンピュータの世界をIBMが席巻?
2005年前半に米国エネルギー省に納入されるBlue Gene/Lは、最大構成の64ラックからなり、360 TFlopsになるという。そして、2006年には、1999年に始まった、1ぺタフロップス(TFlopsの1,000倍)を目標にするBlue Geneが完成するという。Blue Gene/LはこのBlue Geneプロジェクトの一環として2001年にスタートしたものだ。Blue Geneは当初の計画では30個程度のプロセッサを1 LSIに搭載するもので、Blue Gene/Lよりさらに実装密度が上がる。
現在TOP500の上位に、デル、シリコン・グラフィックス、ヒューレット・パッカード、サン・マイクロシステムズなど、高度な半導体技術や実装技術を持っていないメーカーが多数登場しているが、こういう時代は終わるのではなかろうか。
1) “TOP500 Supercomputer Sites” TOP500.Org ( http://www.top500.org/ )
2) “IBM details Blue Gene supercomputer” News.Com, May 8, 2003, CNET Networks
( http://news.com.com/IBM+details+Blue+Gene+supercomputer/2100-1008_3-1000421.html )
3) “IBM puts Blue Genes up for sale” The Register, 8th November, 2004
( http://www.theregister.co.uk/2004/11/08/ibm_bluegene_sale/ )
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