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No.407                            酒 井 寿 紀                      2004/08/16


続・PHSに将来はあるか?・・中国では

 

前号では日本のPHSの将来性について見てみたが、実は中国では現在PHSが急速に普及しつつある。前号で触れたDDIポケットの買収には、カーライルとともに京セラも参画し、持ち株比率はカーライルが60%、京セラが30%になる。このように京セラが参画したのは、同社は現在中国にPHSの端末や基地局を供給しており、この市場の今後の発展を期待しているからだと言われている。

では、中国のPHSの将来性はどうだろうか?

中国のPHSの状況

中国では1997年に地方の中小都市でPHSのサービスが始まった。中国電信(China Telecom)と中国網通(China Netcom)という2社の固定電話事業者がサービスを提供している。この2社は携帯電話事業を認可されてないが、中国政府はPHSを携帯電話として扱っていないため、固定電話網を利用してPHSのサービスを始めたのである。

このため、中国のPHSは日本のPHSと違い、固定電話と同じ番号体系で、一つの市外局番内でしか使えない。しかし、通話料金が固定電話とほぼ同額で、携帯電話の約半分と安いため、簡便な携帯電話として普及した。このPHSは中国では「小霊通(シャオリントン)」と呼ばれている。

「小霊通」は当初中小都市でしか使えなかったが、20034月には広州、同年5月には北京、そして20045月には上海でもサービスが始まった。加入者数は2002年末には1,200万人だったが、2003年末には3,500万人に増え、2004年に入っても毎月300万人程度増加中で、2004年末には6,0007,000万人になるだろうと予想されている。

はたしてこの「小霊通」の加入者は、今後もこのペースで増え続けるのだろうか?

現在はやはり携帯電話が主役

一方、中国の携帯電話は、中国移動通信(China Mobile)と中国聯合通信(China Unicom)によってサービスが提供され、20045月末にその加入者数は360万人に達し、毎月約500万人が新規に加入している。つまり、PHSの利用者は、急速に増えたとは言っても、まだ携帯電話とPHSをあわせた利用者のうちの10数パーセントで、現在はやはり携帯電話が主役である。ではこの関係は今後どうなるのだろうか?

中国での携帯電話対PHS

中国インターネット・ネットワーク・インフォメーション・センター(CNNIC)のデータによれば、20046月末に中国のインターネット人口は8,700万人に達し、日本を抜いて、米国に次いで世界第2位である。そして、ブロードバンドの利用者も急増し、20046月には前年の3.2倍の3,100万戸になった。1)

このようにインターネットが急速に普及しつつあるので、現在はまだ携帯電話でのウェブの利用者は少ないようだが、今後確実に増えるものと思われる。そして、2005年には中国でも第3世代の携帯電話のサービスが始まる予定で、高速のデータ通信が可能になる。それにあわせて、日本同様、携帯電話用のウェブの表示もどんどん複雑化し、重たいものになっていくだろう。そうなれば、携帯電話にも高速のデータ通信が要求されるようになり、PHSではこの要求に応えられないのも日本と同じである。

そして、前号に記したように、PHSには通信速度のほかにも制約が多い。特にサービス・エリアについては、中国のPHSは一つの市内でしか使えないため、旅行先では使うことができない。また高速移動中の使用に制約があることや、携帯電話とPHSを使い分けようとすれば、2重に契約し、2台携帯しないといけないことも日本と同じである。

従って、日本のPHSについて前号に記したのと同様に、中国でもインターネットの端末用としてのPHSの今後の伸びを期待するのは難しい。中国でPHSが今後もさらに伸びるとすれば、それは日本と違い、通話中心の、一つの市内だけで使われる簡便な携帯電話としてだろう。しかし、それにも不透明な要素がある。

政府の政策と企業の戦略が大きく影響

従来、PHSに対する中国政府の方針は明確でなく、認可エリアを中小都市から大都市へと、現状を追認しつつ、なし崩し的に広げてきた。そして、2005年には利用者が1億人を超えると思われるので、今や急激な政策転換が難しいのは確かだ。しかし、政府のPHSに対する政策が今後どうなるかは一つの大きい問題である。

また、日本では、少なくとも今までは、携帯電話とPHSをおもに同一事業者が運営していたので、両者の共存の道を価格政策などに反映することができた。しかし、中国では別の事業者が運営しているので、まともに市場を奪い合う形になる。従って、企業の戦略的な価格政策などがPHSの将来に大きく影響する。

そして、中国では政治体制の問題や経済成長の地域格差の問題などが絡むため、何事についても将来を予想するのはきわめて難しい。しかし、中国のPHSが長期的には日本のPHSと共通の問題を抱えているのは確かだ。従って、「小霊通」に対する新規投資はできるだけ短期に回収することを考えるべきであろう。

 

1) “Number of Net users in China soars to 87 million” The Straits Times INTERACTIVE,

July 21, 2004 ( http://www.straitstimes.com.sg/eyeoneastasia/story/0,4395,262560,00.html )


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