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No.406                            酒 井 寿 紀                      2004/07/20


PHSに将来はあるか?

 

カーライルがDDIポケットを買収

米国の大手投資ファンドのカーライルが、621日に、PHSの最大手であるDDIポケットを、京セラと共同でKDDIから買収すると発表した。買収に当たって、カーライルの日本代表である安達保氏は言っている。「PHSは潜在的な成長力がある」1) 「好調なノート・パソコン向けPHSサービスをさらに伸ばす」2)  しかし、この判断は正しいのだろうか?

PHS (Personal Handy-phone System)とは、固定電話のコードレスの子機に使われている無線技術をベースにした、いわば簡易型の携帯電話で、日本で1995年にサービスが始まった。PHSは、周波数帯の利用効率のよさ、通話料金の安さなどの特徴があるが、通話用としてはサービス・エリアの狭さなどのため携帯電話に太刀打ちできなかった。そして最近は、主としてインターネットのモバイル接続用に使われていて、カーライルも上記のようにこの市場の拡大を期待している。しかし、PHSは今後のモバイル接続のニーズに応えられるのだろうか?

モバイル接続に要求されるもの

以下、モバイル接続に対して要求される事項ごとにPHSの将来性を見てみよう。

(1) データ転送速度が速いこと

家庭やオフィスでのインターネット接続では、ADSLなどの10Mbpsクラスの回線が一般化し、光ファイバの100Mbpsクラスも一部に使われだしている。そのため、モバイル接続にもこれらの速度に匹敵する高速性が要求される。

高速化の要求に対し、例えばNTTドコモのFOMAは現在384kbpsだが、来年サービスを開始するHSDPA (High Speed Downlink Packet Access)では、技術的には最大14Mbpsのデータ転送が可能である。また、KDDICDMA2000 1xは最大144kbpsだが、2003年11月にサービス を開始した1x EV-DO (Evolution Data Only)は最大2.4Mbpsに高速化された。そして、現在検討が始まっている第4世代の携帯電話のデータ転送速度は50100Mbpsを目標にしている。

それに対し、PHSは固定電話の64kbpsの回線をベースにしているため、現在は最大128kbpsで、将来の高速化にも限界がある。

(2) 通信料金が安いこと

DDIポケットやNTTドコモのPHSを使ったデータ通信サービスでは、5,000円/月程度の定額料金でモバイル接続を使い放題に使える。この料金の手ごろさが日本でPHSがモバイル接続用として普及した最大の理由である。

一方、日本の一般の携帯電話のデータ通信料金は非常に高い。例えば、NTTドコモのFOMAの通信料金は、安いものでも0.02円/パケット(128バイト/パケット)なので、1日平均10MB転送すると、月額5万円程度になってしまう。

米国の携帯電話事業者であるVerizonCingularは月額79.99ドル(約9,000円)で使い放題のインターネット接続サービスを提供している。これでもまだ高いが、少なくともウェブの閲覧中に料金を心配する必要はない。KDDINTTドコモも定額料金サービスを開始したが、一般のプロバイダに接続するときはこのサービスは適用されない。しかし、いずれ日本の携帯電話も、米国同様、定額でのインターネット接続サービスを提供するようになり、PHSのメリットは薄れるだろう。

(3) サービス・エリアが広いこと

残念ながらPHSのサービス・エリアは狭い。大都会では問題なくても、例えば、八ヶ岳付近の避暑地では使えないところが多い。PHSの事業者はサービス・エリアの拡大に努めているが、携帯電話には及ばない。携帯電話に比べ電波の到達距離が短いので、必要な基地局の数が多く、人口密度が低いところまで携帯電話並みにサービス・エリアを拡大するのは容易ではないだろう。

(4) 高速移動中も使えること

列車や車で移動中もモバイル接続が使えることが望ましい。PHSが新幹線の中でも使えたという報告もあるが、高速移動中の接続にはやはり携帯電話の方がまさっているようだ。

(5) 通話とデータ通信が一つの契約、一つの機器でできること

通話用とデータ通信用に、別の契約を交わし、別の機器を持ち歩かねばならないのは何と言っても不便である。一つで済むに越したことはない。一つの契約、一つの機器で、全世界で通話もデータ通信もできるのが理想だが、PHSにはその可能性はない。

今後は基幹網がIP化される方向なので、通信事業者にとっても同じIPネットワークを通話にもデータ通信にも使った方が効率がいい。

以上のように、モバイルでのインターネットのアクセスには携帯電話の方が望ましい点が多い。携帯電話の事業者は、携帯電話のネットワークを単なるインターネットのアクセス網として提供することには積極的でなく、付加価値の高いサービスの提供に力を入れているが、ユーザーのニーズを軽視したらうまく行かないだろう。

PHSでのモバイル接続の伸びは一時的なもので、遅かれ早かれ携帯電話に置き換わるものと思われる。

 

1) DDIポケット買収合意発表」 日本経済新聞 2004622

2) 「製造業などへ投資 07年までに300億円」 朝日新聞 200478


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