No.403 酒 井 寿 紀 2004/04/16
フラッシュ・メモリでAV機器はどうなる?
身のまわりを見回すと・・・
身のまわりを見回すと、ここ数年フラッシュ・メモリがずいぶん増えた。
ディジタル・スティル・カメラの記憶媒体は大半がSDカード、コンパクト・フラッシュ、メモリ・スティックなどのフラッシュ・メモリである。
ヘッドフォン・ステレオは、もとはカセット・テープを使ったものしかなかったが、最近はフラッシュ・メモリを使ったものが現れた。韓国のサムスンが販売しているものは、大半がフラッシュ・メモリを使ったもので、ほかにハード・ディスクやCDを使うものもあるが、テープを使うものはもうない。日本もやがてこうなるのだろう。
テープレコーダは、名前どおりテープを使っていたが、最近はフラッシュ・メモリを使うものが増えている。もはやテープレコーダとは呼べないのでICレコーダと呼んでいる。
携帯電話もフラッシュ・メモリの大ユーザーだ。電話帳などのデータ、カメラ付き携帯電話で撮った静止画、動画などがこれに蓄えられる。
パソコン、PDA、携帯電話などの間で、データをやり取りするのにもフラッシュ・メモリを搭載したカードが使われている。以前は、データをやり取りする簡便な媒体といえばフロッピー・ディスクだったが、これでは大きすぎて携帯電話などにはとても使えないし、容量も1MB程度なので、画像データなどはろくに入らない。フラッシュ・メモリに個人用のアドレス帳、電話帳、ブックマーク、仕事に使うファイルなどを入れて持ち歩けば、世界中どこへ行っても、旅行先のパソコンを使って、オフィスや自宅にいるときと同じように仕事ができる。
フラッシュ・メモリはどうなる?
このフラッシュ・メモリは今後どうなるのだろうか? 現在、フラッシュ・メモリが入ったコンパクト・フラッシュなどカードが、256MB当たり約1万円で買える。従来半導体メモリは、だいたい5年で10分の1、10年で100分の1になる値下がりを続けてきた。いわゆるムーアの法則である。このペースが今後も続くとすれば、256MBのフラッシュ・メモリの値段は、5年後には1,000円、10年後には100円になる。また、1万円で買える容量は、5年後には2.5GB、10年後には25GBになる。
最近の東芝の広告記事によると、2004年に4Gビット/チップ、2007年に32Gビット/チップが実現できる見込みという。1) これが同じ値段になるとすれば、容量当たりの価格が3年間に8分の1になることになる。もしこのペースが続けば9年間にほぼ500分の1になることになるが、長期的にこのペースが続くのは難しそうだ。
現在使われている最先端のプロセス技術は最小加工寸法が90nmで、ゲート長が50nmである。そして、昨年12月のIEDM (International Electron Devices Meeting)でNECは5nmのゲート長の試作結果を発表した。2) その最小加工寸法は11nmだという。従来、半導体の微細化が1桁進歩するには、3年を1世代とするプロセス技術で6世代、つまり18年かかっていた。このペースが今後も続くとすれば、ゲート長5nmのCMOSが使われるようになるのは20年近く先のことになる。しかし、進歩の速さは別にして、少なくともまだ10年以上半導体の進歩が続くのは確かなようだ。
その結果どうなる?
オーディオの世界では、ヘッドフォン・ステレオの媒体はすべてフラッシュ・メモリになるだろう。この方がカセット・テープに比べて小型になり、衝撃に強いためである。現在アップルの「iPod」は4〜40GBのハード・ディスクを使っているが、これも小型のものから順次フラッシュ・メモリに置き換えられて行くだろう。
オーディオのデータはインターネットでダウンロードして、ホーム・サーバーのハード・ディスクに蓄えられ、据え置き型やポータブルのステレオ機器、カーステレオなどに、USBインタフェース、フラッシュ・メモリのカードなどを使って移されるのが普通になるだろう。そうなれば、カセット・テープもMDもCDも不要になる。
映像の記録に必要な容量はオーディオより1〜2桁多い。従って、前述のようにフラッシュ・メモリの容量が5年で10倍になるとすれば、映像ではオーディオより5〜10年遅れてフラッシュ・メモリが使われるようになるだろう。もうすでに携帯電話では映像の記録にフラッシュ・メモリが使われている。このような小画面、低精度のものから順次フラッシュ・メモリが使われるようになるだろう。いずれビデオ・カメラの記録媒体はDV規格のカセット・テープや8cmDVDからフラッシュ・メモリに変わると思われる。
前述のように25GBのフラッシュ・メモリが1万円になったとき、現在のDVDや次世代の光ディスクは、映像用記録媒体として生き残ることができるだろうか? いつになるかは別にして、遅かれ早かれオーディオの世界でのテープやCDと同じ道を歩むことになるのではないかと思う。
もしこのような方向に進めば、AV機器用の、モーター、磁性体、テープやディスクのプラスティック材料、光ピックアップなどは不要になる。従って、このような技術で生きている企業は、フラッシュ・メモリの進歩とそれがAV機器に与える影響をよくウォッチする必要がある。
1) 「メモリ技術最前線」 日経エレクトロニクス 2004年3月1日号
2) 「5nm CMOSトランジスタ、1MHzの有機回路に注目」 日経エレクトロニクス 2004年1月5日号
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