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No.402                            酒 井 寿 紀                      2004/02/15


ICANNは「I CAN!」になったか?

 

インターネットで使われるドメイン名やIPアドレスの総元締めであるICANN (The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)には、前に本誌の「ICANN曰く、”I CANNOT!”」に記したようにいろいろ問題があった。1) 

ICANNは、米国商務省からのインターネットの管理業務の引継ぎを、20009月に完了する予定で進めていた。この計画はその後どうなっただろうか? また、前理事長のスチュアート・リン氏は2002年に、現在の組織ではICANNの使命を果たせないと唱え、機構改革を実施したが、その結果ICANNは「I CAN!」と言えるようになったのだろうか?

商務省からの業務の引継ぎは、1年の延長が3回繰り返され、20039月に終わる予定になっていた。そして、業務の引継ぎは、多少遅れたが片付きつつあるとの報告がなされていた。ところが20039月に、まだ残っている問題が多いため、引継ぎ期間を3年延長し、20069月を新しい目標にするとの発表があった。なぜ急に変わったのだろうか? 米国商務省の発表を見てみよう。2)(以下は筆者による抄訳) 

「商務省はICANN2002年の機構改革の成果を評価する。しかし、独立して、安定した、永続性のある管理組織になるためにはまだ多くの仕事が残っている。・・・そのため、商務省とICANNは移行期間の3年延長とマイルストーンの設定に合意した。・・・マイルストーンとは下記である。

(1) 機構、費用、人員についての長期的戦略計画の策定

(2) 破産、自然災害などあらゆる危機に対する危機管理計画の樹立

(3) ルート・サーバーの安全性の確保

(4) IPアドレスの割り当てについての世界各地域の機関との契約の締結

(5) 透明性の改善と説明責任を果たすためのしかけ作り

(6) 新しいTLD (Top level Domain)制定の長期戦略

(7) 全世界のCountry Code TLD管理機関との合意の達成

(ほか3件省略)」

要するに、現状は、ICANNの業務全体に渡ってまだ満足できる状態になってないというのである。では3年経てばこれらの課題は解決されるのだろうか? 最近起きた問題について見てみよう。

ベリサイン(VeriSign)はドメイン名の管理の総元締めの仕事をICANNから独占的に委託されている。これに絡んで最近2件の訴訟問題が起きた。

その一つは、ほかの人が登録済みのドメイン名の希望者に対し、その登録が抹消されたときの予約をベリサインが一手に引き受ける、WSL (Wait Listing Service)と呼ばれるサービスである。ベリサインは、これによって、そのドメイン名の希望者が、そのドメイン名の登録状況をしょっちゅうチェックする必要がなくなると主張しているが、ドメイン名の販売業者は、自分たちの自由な営業が妨げられると反対し、本サービスを許可したICANNを昨年7月に訴えた。しかし、11月に出た判決で、裁判所はICANNの行為の違法性を認めず、原告の主張は退けられた。

もう1件は、ウェブの利用者などがドメイン名を誤って入力したときに、ドメイン名のサーバーが利用者につき返さず、ベリサインのSite Finderというサイトに接続して、利用者が意図したと思われるサイトに誘導したり、関連する広告を表示したりするものである。これはインターネットのしかけの根幹をいじくるものなので、ほかのサービスに支障をきたすなど問題が多いものだった。

ベリサインはこのサービスを昨年9月に始めた。ICANNは当初ベリサインに自主的中止を要求したが、ベリサインが聞き入れなかったため、10月に入って本サービスの中止を命令し、Site Finderのサイトは閉鎖された。そしてベリサインはこのサービスのため何社かの企業から訴えられている。

2件とも、一部の利用者に便宜を供与するものではあるが、ベリサインが商務省やICANNによって認められた独占的権限を活用した新商売であることは確かだ。

ベリサインの行為を、けしからんとか、もっと良心的になるべきだとか言って非難する人が多い。しかし、民間企業が、許容される範囲で新しい商売のタネを捜し、利益を追求するのは当たり前のことだ。

問題はインターネットの根幹にかかわる業務を1民間企業に独占的に委託していることにある。これを何とかしない限り、このような問題は今後も跡を絶たないだろう。

このようにICANNを取り巻く問題は多く、簡単には片付きそうもない。米国では、引継ぎ期間の延長でなく、再度商務省が主導権を取り戻すべきだったという意見もある。しかしそれで問題が片付くわけでもない。中国のインターネット人口が日本を抜き、米国についで世界第2位になったと報じられた。インターネットでの中国の比重は今後ますます高まるだろう。インターネットのインフラは今後国際政治の重要課題の一つになると思われる。ICANNが「I CAN!」と言える日はまだまだ遠いようだ。

 

1) Tosky’s MONEY」(No.207)「ICANN曰く、”I CANNOT!”2002416

( http://www.toskyworld.com/money/2002/money207.htm )

2) “Department of Commerce Statement Regarding Extension of Memorandum of Understanding with the Internet Corporation for Assigned Names and Numbers”

( http://www.ntia.doc.gov/ntiahome/domainname/agreements/sepstatement_09162003.htm )


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