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No.401                            酒 井 寿 紀                      2004/01/10


これでいいのか、日本のIT政策

 

昨年11月にITU (International Telecommunication Union: 国際電気通信連合)が各国の情報通信技術のランク付けの調査結果を発表した。1) これは各国の情報通信技術を、@固定電話の普及率、A携帯電話の普及率、Bインターネット接続の費用、C識字率、D初等教育の就学率、Eインターネットの国際回線の容量、Fブロードバンドの普及率、Gインターネット利用者の人口比、の8項目から評価したものである。それによると日本は15位で、韓国(4)、香港(7)、台湾(9)などより下である。

また、同じ昨年11月に、国連が各国の電子政府の現状の調査結果を発表した。2) これは各国の現状を、@政府によるウェブの活用状況、A情報通信インフラの整備状況、B教育の普及状況、の3点から評価したものである。それによると日本は18位で、シンガポール(12)、韓国(13)、アイスランド(15)などより下位である。また評価項目の一つの、政府によるウェブの活用状況については、日本は30位で、フィリピン(7)、韓国(18)、ブルガリア(29)などより遅れているという。

1970年代以来、旧通産省はコンピュータ産業やIT産業の育成、関連技術の開発に大変な力を入れきた。例えば、1982年から13年間続いた第五世代コンピュータの開発プロジェクトには総額570億円かけた。1985年から5年間続いたシグマ計画には250億円を投じた。1992年から10年間続いたリアルワールドコンピューティングは600700億円を投入する計画だった。このように、日本政府はITに非常に力を入れてきたのに、アジア諸国に対しても遅れてしまった。

従来の日本の国家プロジェクトはどれも先進的な技術開発を目標とするものだった。これによって研究者は論文を書けたかも知れないが、その成果はほとんどIT産業に貢献しなかった。このような断片的な技術開発では、たとえうまくいっていたとしても、ITの普及面で社会に貢献することは期待できなかった。これでは諸外国に遅れるばかりだと分った政府は、森喜朗内閣時代の20007月に、IT戦略本部を設置して、IT戦略会議を開催し、20011月に「e-Japan戦略」を決定した。

この「e-Japan戦略」では、@超高速ネットワークインフラの整備、A電子商取引促進のための環境整備、B電子政府の実現、CITを活用できる人材の育成、の4つを重点政策分野として取り上げた。

この4分野は、ITの活用レベルを向上するために政府が注力する分野として、実に当を得たものだった。ネットワークインフラの整備には、政府の支援が必要で、韓国なども力を入れている。電子商取引の活性化のためには、書類や帳票の不要化などの法改正が必要である。また、政府の情報公開や行政手続きにできるだけインターネットを使うことによって、政府がインターネットの普及に直接貢献できるだけでなく、民間にもインターネットを活用する模範を示すことができる。そして、小中学校の教育に、もっとインターネットを活用し、図書館に行くかわりにウェブで調べることを子供のときから覚えさせることは重要である。このような点がこの4分野が重要な理由である。

この4分野には2003年になって、「ネットワークの安全性及び信頼性の確保」が加わり、現在は5分野になっている。しかし、ITについての社会基盤を構築するという意味では、当初の4分野が基本であることに変わりはない。

この45分野はいいのだが、その後やたらといろいろな計画がこの「e-Japan戦略」に登場した。例えば、電子カルテの普及、食品トレーサビリティシステムの構築、緊急車両の現場到着時間の短縮、ディジタルアーカイブ化の推進などである。これらを全部同じ重みで列挙されると、本来の最重点課題がかすんでしまうのではないかと心配だ。

そして、従来の国家プロジェクトの実績からして、あとから多数付け加えられた新技術の実証実験などの中には、何の成果も残さないものもあるのではないかと心配になる。ろくでもないものに税金が使われるより、これらの方がまだましかも知れないが、当初の4つの重点政策分野がかすんでは「e-Japan戦略」の意味がなくなる。

現在総務省は、「e-Japan戦略」の中で、世界に先駆けてIPv6の実証実験を行って技術的課題を解決し、その普及促進を図ろうとしている。また経産省は日本発の無線タグの規格をISOに提案しようとしている。これらも結構だが、先ずはITを使いこなす面で、世界のトップクラスの国と肩を並べるようになるのが先決である。ほかの国から見れば、ボロ車にしか乗ってない人が次期の最新鋭車の仕様を提案してきても、聞く気にもならないだろう。

そして、日本のITが遅れてしまったのは政府だけの責任ではない。日本人が道具を使いこなすのが下手なためも大きい。いまだにパソコンやインターネットを毛嫌いしている年配の人や風流な人が多い。一方で、日本ほど家電メーカー製の高価なパソコンが尊重されている国もないだろう。電話などと同じように、パソコンやインターネットを単なる生活や仕事の道具として使いこなすようになる必要がある。

 

1) “ITU Digital Access Index: World’s First Global ICT Ranking”

International Telecommunication Union, Press Release, 19 November, 2003

( http://www.itu.int/newsarchive/press_releases/2003/30.html )

2) “World Public Sector Report 2003: E-Government at the Crossroads” United Nations, 2003

( http://unpan1.un.org/intradoc/groups/public/documents/un/unpan012733.pdf )


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